エアビーアンドビーが掲げる「グローカル」というゴール

360b / Shutterstock

シリコンバレーの「メガ・ユニコーン」の中で、グローバル展開が最も進んでいるのはエアビーアンドビーだろう。同社は世界190か国、34,000都市でサービスを展開し、その拠点数はウーバーの2倍以上もある。また、スナップチャットやピンタレストがアメリカ国内での利用が大半を占めるのに対し、エアビーアンドビーはアメリカ国外の予約が全体の三分の二を占め、ヨーロッパが最大の市場となっている。

しかし、グローバル化の急速な進展により、同社は多くの課題にも直面しているという。エアビーアンドビーでプロダクト担当の副社長を務めるジョー・ザデーは、自社が克服しなければならないチャレンジを「グローカル(glocal)」と表現する。

「世界のあらゆる地域でサービスを展開するためには、グローバル化とローカル化を同時に実現する必要がある」とザデーは話す。

エアビーアンドビーの最大の魅力は、判で押したようなホテルの部屋とは違ったローカルな体験を味わえることだ。その一方で、宿泊施設の「清潔さ」は、世界中のどの地域でも一定の基準を満たす必要がある。このように、グローバル基準とローカル体験のバランスをうまく取り、旅行者を満足させることが同社にとって目下の課題だ。

また、ホストがサイトに掲載する紹介文をどの言語で表示するかというのも難しい問題だ。アメリカ人が日本に旅行する場合、エアビーアンドビーが自動的に英語に翻訳してしまうと、ゲストはホストが英語を話すことができると勘違いしてしまうかもしれない。同社は現在のところ、現地語で表示をして翻訳ボタンを用意している。

中国でのユーザー数は7倍に増加

エアビーアンドビーは、決済手段のローカル化にも取り組んでいる。リオデジャネイロオリンピックが近づく中、同社にとってブラジルは成長が期待できる市場だが、昨年までは米ドルでしか決済できなかった。ブラジルでは米ドルでの決済比率は22%しかないにも関わらずだ。現在ではレアルで支払うことのできる現地のクレジットカードや、ブラジルで広く普及している決済システム「Boleto」、分割払いなど、幅広い決済手段を提供している。

「我々が一番学んだことは、データが良い結果を示していても、深く掘り下げて分析をしないとその地域について本当に理解することはできないということだ。例えば、ブラジルでのコンバージョン率は一見問題がないように見えたが、実際には現地通貨が利用できないために多くの人が離脱していたのだ」とザデーは話す。

こうした取組みの結果、2015年には3,000万人の利用者が32種類の通貨で決済を行い、エアビーアンドビーはホストに対して65種類の通貨で送金を行った。

グローバル展開では、ID認証の手段を増やすことも重要な取組みだ。アメリカ国内では、メールアドレスの他にフェイスブックやグーグルのアカウントを使ってエアビーアンドビーに登録することができるが、アメリカ国外では現地のサービスとの連携が求められる。例えば中国では「ウェイボー(微博)」や「ウィーチャット(微信)」と連携した結果、2015年に中国人ユーザーの数が700%増加したという。

「各国のニーズに合ったログイン方法を提供すれば、会員登録のコンバージョン率を瞬時に急増させることが可能だ。あらゆるサービスとの連携は模索しないが、我々やユーザーにとって重要な地域に関しては、現地のニーズを深く理解するための投資を惜しまない」とザデーは言う。

エアビーアンドビーは今後数年でローカル化を一層加速させる予定だ。先月には共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキーがアプリのリニューアルを発表し、ホストの近隣住民によるレビューやレコメンデーションなどの新機能を追加した。同社が目指すのは、単に民泊を仲介するのではなく、より豊かな旅行体験をユーザーに提供することだ。

「多くの人にサービスを利用してもらうためには、改善が必要な部分と変えなくても良い部分を理解する必要がある。何でもかんでもローカル化を追求すれば良いというものではなく、グローバル基準を満たすべき要素はあえて手を付けないことも大切だ」とザデーは話す。

編集=上田裕資

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事