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2016.05.06

「眠れる場所」が地域活性化の処方箋 スペースマーケット

横須賀市の猿島は、冬期(12~2月)閑散期のため、平日はフェリーを出航していない。「貸し切り」となるその時期を狙い、スペースマーケットは、コスプレ撮影会を共催。 (photographs by Takeshi Abe)

東京湾に浮かぶ唯一の無人島、猿島。横須賀の三笠公園から船で10分で行けるこの島は、夏はバーベキューや海水浴を楽しむ人々で賑わう人気の観光スポットだ。海と森の豊かな自然とともに、江戸時代から太平洋戦争の末期までに造られたレンガ積みのトンネルや砲台など、歴史的な遺構が多数あることでも知られている。

その猿島に、寒さ厳しい2月26日の朝、色とりどりの衣装に身を包む120名のコスプレイヤーが集った。企画したのは日本各地の遊休施設を利用できるネットサービスを立ち上げたベンチャー企業「スペースマーケット」と、全国でコスプレイベントを開催する「勇者屋」だ。参加費は3,500円(事前申し込み)。集客期間は1カ月弱と短く告知はほぼウェブのみだったが、またたく間に定員が埋まった。

このコスプレイベントのきっかけは、スペースマーケット・代表取締役社長の重松大輔が横須賀市に「島をまるごと“貸し切り”できるようにしませんか」と提案したことだった。

「猿島は例年、夏の賑わいとは正反対に、12月から2月は訪れる観光客が激減していました。横須賀市もその間の有効利用法を探しており、我々の提案がちょうどニーズに合致したんです」

スペースマーケットでプロジェクトを担当するビジネス開発部・須藤高弘は実施の経緯を次のように話す。

「猿島は市の公共施設のため料金は格安です。一方、宿泊は認められておらず火気の使用も厳禁。水道も通じていません。船を特別にチャーターする必要もあり、公共の場所という条件もあるため、カップルや個人で利用したいなどの希望に対応するわけにはいきません」。そんな中、「勇者屋」からの問い合わせが来た。「勇者屋」は以前通常の営業期に同様のイベントが開催できないかと横須賀市に打診したが、叶わなかったのだという。

「『“ 貸し切り” のこの機会にぜひ』ということでご連絡いただいたのです」(同前)

横須賀市役所の環境政策部公園管理課・北山剛係長は「“島が貸し切りできる”と色々なメディアで紹介いただいてから、ほぼ毎日のように問い合わせが来ます。猿島は自然も豊かで、歴史的に見ても魅力的な島。実際に足を運んでもらい、より多くの人にその魅力を伝えていきたい」と語る。

創業者の重松氏は、NTT東日本に勤務後、インターネット写真サービスを手掛けるベンチャー企業、フォトクリエイトに入社した。同社の営業で訪れた閑古鳥が鳴いていた平日の結婚式場が、スペースマーケットのアイデアにつながったという。

「土日は2年先まで埋まっている人気の結婚式場も、平日はガラガラ。一方で普通の会社は平日に業務を行っていて、土日が休みです。だったら企業のイベントを綺麗な結婚式場で行えば、双方にとってメリットしかないと考えました」

さっそく会社を立ち上げサービスを開始すると、企業だけでなく大きな一軒家を持て余している主婦など個人からも「うちを貸し出したい」という問い合わせが寄せられるようになった。「横浜にある一軒家は、貸し出しを始めたところ小さな子連れの主婦たちの会合やパーティ利用で人気となり、月に30万円も収益が上がるようになりました」

スペースマーケットは猿島の他にも、廃校となった木造校舎の小学校、地方の古民家、お寺・教会、TSUTAYAが運営することで話題となった武雄市図書館など、さまざまな日本各地の魅力ある施設の貸し出しを始めている。いずれも一般には「借りられるとは思わなかった」施設で、個人的な会合からビジネスの大規模イベントまで、さまざまなニーズに応えている。地域の活性化に悩む自治体関係者からの問い合わせも増えており、「まだまだ日本に眠る面白い場所に光を当てていきたい」と重松社長は意気込む。

SPACE MARKET
2014年1月設立。資本金6,382万円。国内外のユニークなスペースをワンストップで予約できるサービスを提供。代表取締役社長の重松大輔は、1976年生まれ。NTT東日本、フォトクリエイトを経て創業。

遊休アセット活用モデル
スペース、時間、文化的価値。都市圏だけではなく、海外から見てユニークかつ、魅力的な地方の遊休資産を、ITやネットワークを使って可視化、及び商品化することにより、ほぼ0の原資から、新たなビジネス価値を生むモデル。

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明治期の「フランス積み」と呼ばれるレンガ積み方式は、猿島を含め、日本で4カ所しかない。

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あらゆる世代の人たちが思い思いの装いで楽しんだ。

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大越 裕 = 文 阿部 健 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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