2015年1月のダボス会議で指摘された「発生の可能性が高いリスク」を見ると、異常気象とそれに伴う自然災害が目に留まる。「影響が大きいリスク」にある「失業または不完全雇用」「国家間紛争」などは、日本人にも理解できるテーマだ。
しかし、ほかのリスクはどうか。「国家の崩壊または危機」、「気候変動」、「水危機」などは、対岸の火事と捉えられてきたのではないだろうか。一般に、日本で想定されているリスクは、自然災害やインフルエンザ、または原発事故など、あくまでも個別事象に範囲が限定されている。
また、「想定外」という言葉からも明らかだが、東日本大震災以前は誰も原発事故が起きるなどとは思っていなかった。不都合な真実を隠し、見たくない現実から目を逸らす。こうして、ありもしない安全神話を信仰していたのである。
さらに、顕在化した事象が、次の新たな問題を引き起こすという、繋がりの中に潜むリスクは常に盲点となる。例えば「異常気象」や「気候変動への適応の失敗」、あるいは「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」は「水危機」に、そして「食糧危機」や「エネルギー安全保障」へと密接に繋がる。
リスクあるところに商機あり
世界が抱える課題は、複雑に絡まりあい、常時接続している。ただ、こうした課題の中には、リスク同士を繋ぎ、問題を連鎖させる「ハブ」の役割を果たすものがある。ダボス会議では、このハブにあたるリスクを、国際的に協調して管理し、負の波及効果を最小限度に抑えようとしている。COP21のパリ協定はその典型である。
一方で、これを世界経済フォーラムが議論する背後には、リスク管理がビジネスになるという戦略的な考え方がある。水危機を例にとれば、浄化技術のイノベーションはもとより、水資源の地理的偏在と中長期の水資源供給地を踏まえた戦略的な食糧調達、IoTを活用した需要供給のデータ管理、高効率な食糧生産技術の開発、金融を大衆化するFintechの活用による効率の高い国際送金、決済システムの確立—などがある。
日本の治水、浄下水技術は単なる途上国へのインフラ支援だけではなく、世界規模のビジネス、日本の安全保障につながる。我々には、今、世界の主流が変わる、それをビジネスベースで考えるという自覚が必要だ。
蛭間芳樹(ひるま・よしき)◎1983年、埼玉県生まれ。2009年東京大学大学院工学系研究科社会基盤学卒、日本政策投資銀行入行。現在、環境・CSR部BCM格付主幹。専門は危機管理、金融、レジリエンス。世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズ2015選出、11年よりリスク・レスポンス・ネットワークパートナーを務める。16年1月1日にNHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』(元旦特番)に出演予定。