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フリーランスのライター・編集者

illustration by Alexander Wells

バーチャル・リアリティ(VR)—。映画やアニメ、SF小説の中で描かれてきた、
遠い未来の話だった「仮想世界」がいよいよ現実のものになろうとしている。
開発の最前線シリコンバレーで、未知の領域に挑む起業家たちの取り組みを追った。

“神童”と呼ばれた発明家の素顔は意外なものだった。オフィスの壁に描かれていたのは、仮想世界のゲームを題材とする日本のライトノベル『ソードアート・オンライン』のグラフィティ。そのことを指摘すると、まるで自分の“仲間”を見つけたかのようにパーマー・ラッキー(23)は口元を緩めた。

「ロサンゼルスのアニメ・エキスポで作者の川原礫(れき)に会ったんだ。僕らの作った製品を見せたら、すごく面白がってくれたよ。そういえば、『ログ・ホライズン』(※原作は橙乃ままれのSF小説。のちにテレビアニメ化)って観た?僕はまだなんだけど、今度ゆっくり観るつもり。最近は忙しくてアニメはあまり観てないんだ……」

当然だろう、むしろ日本のアニメをそれだけフォローしているという方が驚きである。

忙しいのは、ラッキーが時代の寵児だからだ。自ら創業した「Oculus VR(オキュラスVR)」は2012年にキックスターターでの大型資金調達で一躍注目を浴び、14年にはフェイスブックが20億ドル(約2,400億円)で買収。そしていよいよ16年はじめには、待望のVRヘッドセット「Rift(リフト)」製品版が発売される。ゲームオタクたちがこの魔法のゴーグルを手にすれば、今はまだ空想にしか聞こえないVR(バーチャル・リアリティ)がいっきに我我の日常生活にまで浸透するかもしれない。

「仮想現実」とも呼ばれるVRについてはすでに一部で報じられているとおり、スキーのゴーグルのような形をしたヘッドマウントディスプレーを頭に装着すると、360度(というより全方位)の視野角で3D映像を楽しめるというもの。映画館の大型スクリーンなど比較にならないくらいの“没入感”が味わえるとあって、ゲームファンのみならず、世のテクノロジー好きたちを熱狂させているのだ。

オキュラス以外にも、ソニーやHTCなど大手メーカーがVRヘッドセットの開発競争に名乗りを上げている。またサムスンはオキュラスと手を組んで、スマートフォンと一緒に使うヘッドセット「Gear VR」をすでに15年11月に市場に投入した。

ライバル企業との違いについて、「くわしいことはまだ言えないけど、僕らは最高のヘッドセットと最高のコンテンツをもっている」と、ラッキーはフェイスブック本社内にある自社オフィスで語った。新製品では従来、課題とされてきたフレームレートや解像度を改善し、また人間工学に基づいてさまざまな人の鼻の形状にフィットするよう、装着感を高めた。

コンテンツであるVRゲームについては、自社開発のほか、インソムニアック・ゲームズやハイボルテージ・ソフトウェアなど、アメリカのゲーム制作会社と共同開発も行っている。これらを合わせると、16年中に30本ほどのVRゲームをリリースする予定だという(サードパーティー製品はこれよりはるかに多くなると見られている)。

興味深いのは、オキュラスがこうした他のゲーム制作会社を資金面でもサポートしていることだ。そこには先駆者ならではのジレンマも見え隠れする。「現時点ではVRのユーザーは存在しないも同然なので、制作会社にとってVRゲームを作るのは大きなカケです。そもそも、そこに市場があるかすらわからないんですから。そのため、オキュラスが開発資金を100%負担することで、そのリスクを軽減しているんです」と、ラッキーは説明した。

もちろん、こうしたことが可能なのは、親会社であるフェイスブックのおかげだ。同社が後ろ盾となったことで、潤沢な資金が手に入り、「優秀な人材の雇用だけでなく、スタートアップには難しい長期的な研究開発にも取り組めるようになった」。事実、同社は14年、ワシントン州レッドモンドに「オキュラス・リサーチ」という研究所を創設し、触覚フィードバックやオプティクスなど、実用化まで少なくとも3年以上はかかると見込まれる先端技術の研究開発を行っている。

「僕らのようにリスクをとってVRの未来に投資している企業はほかにない。他社はたいてい試験的なプロジェクトとしてやっていて、すでに世の中にあるツールを利用しているだけ。彼らにとって、成功するかどうかわからない事業に数百万ドルも投資するなんてリスクが高すぎるからね」と、ラッキーは他社との違いを説明する。

“VRの未来への投資”の例はほかにもある。同社は「オキュラス・ストーリー・スタジオ」というVR映画専門の制作チームを作り、すでに「Lost」と「Henry」という2本のショートフィルムをオンラインで公開している。同事業の制作スタッフとして、ピクサーやインダストリアル・ライト&マジック(ILM)出身のクリエイターたちを雇い入れるほどの力の入れようだ。

もしや、将来的に“VR映画界のピクサー”のような地位を目指しているのだろうか。そう尋ねると、「VR映画で利益を上げることは一切考えていない」とラッキーは否定した。

「ストーリー・スタジオでは、VRを使ってどんな映画が作れるかを探るのが目的。いろんなテーマや手法を試してみて、うまくいった点、失敗した点をみんなとシェアしています。ほかのクリエイターたちにもっと良いVR映画を作ってもらえるようにね。実際、『Henry』の制作に使ったソフトウェアの多くをオープンソースにして、誰でも無料でダウンロードできるようにしているよ」 あくまで、他のコンテンツ制作者がVRビジネスで成功することを優先しているのだという。

VRがもたらす革命のまさにど真ん中にいるオキュラス。だが当のラッキーは、会社のマネジメントはほかの人間に任せ、自分は「CEO」でも「会長」でもなく、あくまで「発明家」として日夜、VR技術の開発に心血を注いでいる。

「僕はビジネスにはあまり向いていないことがわかったから」とラッキーは笑う。「ほかの誰もやらないことをやりたいんだ。自らが未知の技術に挑戦することで、VR産業が停滞することなく前へ進めるようにしたい」自社のビジネスだけでなく、VR市場の成長そのものに投資する。それが開拓者としてのオキュラスに課せられた使命ということか。

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(左)発売間近とされるVRヘッドセット「オキュラス・リフト」。「解像度もフレームレートも他社製品より上」とラッキーは話す。
(右)オキュラスの映画制作チームが作ったVRショートフィルムの「Henry」。リフトの製品版に無料でバンドルされる予定だ。

「VR」と「AR」はどう違う?
VR(Virtual Reality)は「仮想現実」と呼ばれ、ユーザーが実際にいる空間とは異なるデジタル空間を指す。たとえばイラストのように古代にトリップして恐竜に会えるのはVRの一例。一方、AR(Augmented Reality)は「拡張現実」と訳され、現実世界の上にデジタル情報を重ね合わせた合成空間のこと。マンガ『ドラゴンボール』に登場する片メガネの「スカウター」(相手の戦闘能力を調べる装置)はARの一種だ。

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photographs by Ramin Rahimian
Palmer Luckey パーマー・ラッキー(23)
オキュラスVRの創業者。2012年、クラウドファンディングサービス「キックスターター」で240万ドル以上の資金を集め、注目を集める。14年、フェイスブックの傘下に。

文=増谷 康  

 

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