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photographs by Gabriela Hasbun

数年前までバーチャル・リアリティ(VR)は、まだ小説や映画、アニメのなかの世界と思われていた。
しかし昨年、IT大手「フェイスブック」が弱冠21歳の青年が起こしたVR端末の開発会社を買収。そして、大手電機メーカーも試作品を公開し、さまざまな産業がVRの製品開発に乗り出している。もう空想などではない――。「遠い未来の話」が、また一つ私たちの現実になろうとしているのだ。

宇宙船セバストポリ号の倉庫は、暗くて薄気味が悪い。積まれた貨物の間を歩くと、物音が聞こえてきた。思わず心臓が高鳴る。「どこかで水滴が落ちただけだ」と、私は自分に言いきかせた。

本当なら、おびえる理由などない。私が今いるのは、映画『エイリアン』をベースにした「エイリアンアイソレーション」というゲームの中なのだから。でも、私はVR端末「オキュラス・リフト」(以下、リフト)を装着しており、視界はすべてゲームの画像で占められている。周囲を見回すと、画像もそれに応じて動いた。

また別の音が聞こえた。そちらに目をやると、重い扉が横に開いていく。後肢で立ちあがったエイリアンが、距離を詰めて私につかみかかった。喉の奥の2組目の歯列が、目の前に突き出された。私は凍りつき、思わずキャッと悲鳴を漏らす。

すると背後から―こちらは現実世界の話だが―笑い声が聞こえた。リフトを開発したパーマー・ラッキー(23)が、こっそりプレーを見ていたらしい。「あっさり死んじゃったね」と言って、彼は大笑いした。

ラッキーはこうしたゲームを子供のころから作ってきた。といっても、遠い昔のことではない。16歳で仮想現実端末の開発を始め、19歳で「オキュラスVR」という会社を起業。21歳のときに、それをフェイスブックに20億ドル(約2,400億円)で売却した。会社が利益を出すどころか、市販用の製品さえ完成していなかった段階でだ。当時はまだ試作品に毛が生えた程度のものしかできていなかった。だがここにきて、ラッキーは、彼以前の技術者たちが何世代にもわたって挑んでは失敗してきたこと―仮想現実を大衆に届けること―を実現する寸前にある。

もしも眉まゆ唾つばだと思うなら、それはリフトを試していないからだ。リフトは熱狂的なファンを生むだろうし、VRは世界を変えるだろう。フェイスブックにとってオキュラスの買収は、ユーザー数が急拡大していたインスタグラムや確かな収益モデルを持っていたワッツアップと比べて思い切ったものだった。同社の共同創業者マーク・ザッカーバーグも、「電話やテレビに匹敵する新たなコミュニケーション・プラットフォームになる」と語っている。

「こうした没入型の拡張現実(AR)は、いずれ何十億人もの人々の日常生活の一部になるだろう」と、彼はフェイスブックに投稿した。

「リアルに存在を感じられるから、無限の場所と経験を他の人と分かち合うことができるんだ」

VRのアプリはあらゆる産業を変える可能性がある。自宅でゴーグルを着けるだけで同僚と“面と向かって”話すことができるようになれば、職場に出勤する必要はなくなるかもしれない。ネットショップでは自分と同じ体型のバーチャル・モデルに服を着せ、似合うかどうかを買う前に確認できる。医療用のシミュレーターなら、医師が患者を傷つけることなく手術の練習を積める。世界中の学生が“出席”した授業で、歴史が動く様子をドラマで再現することも可能だ。

■オキュラス・リフト」のスゴさ
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「オキュラス・リフト」のゴーグル内部には一組のレンズと高精細の有機ELディスプレーがセットされている。これが左右それぞれの目にわずかに違った画像を見せ、奥行きのある立体的な幻影が生まれる。

ヘッドセットに内蔵されたモーションセンサーは、あたかも数十cm離れた場所から見ているかのように、使用者が顔を向ける方向を追う。首を回せば、それに合わせて画像が更新される。特に、リフトがスゴいのは、それまでヘッドセット型ディスプレーが抱えていたフレーム(画面の端)が見える問題を解決した点。完全に映像世界に没入できるのだ。

文=デビッド・M・イーウォルト 翻訳=町田敦夫

 

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