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2015.12.03

アップルのCEOとしてティム・クックが上手くやっている6つの根拠

Photo by Justin Sullivan/Getty Images

アップルの株価が101ドルから55ドル(分割後)に暴落し、同社取締役会はCEOのティム・クックを首にすべきだとの記事が多数書かれたのは3年ほど前のことだ。通常、こういった記事は株価の不振を示すためにアップルや株価実績をことさら取り上げないが、Forbesの寄稿者ジェイ・ソマニーなどクックを批判する記事が折々出現する。

CEOは多くの基準で判断されるべきで株価はその一つに過ぎない。以下で私はクック氏が非常に良い仕事を行っていることを示す6つの根拠を指摘したい。それに基本的に平均的な2分野を付け加えて、同氏がCEO就任以来株価が標準以上の実績を上げている点を見ていく。

幹部の起用には強くないかもしれない

外部の人間の視点から、クック氏の人事についての私の評価は複雑だ。大半の従業員についてはとてもうまく行っていると思うが、ジョン・ブロウェット氏の起用と解雇は良いとは言えず、アンジェラ・アーレンツ氏の業績は未知数だ。スコット・フォーストール氏の解雇については2通りの見方ができる。プラス面は、アップルがより協調的になるのに役立つかもしれないが、非常に強力な開発資源を失ったかもしれない。

企業文化の変化

クック氏はアップルの企業文化を変えた。多くの点でこの良し悪しを判断するのは時期尚早だが、私の考えは良い方に傾いている。より協調的になり対立的な面が薄れたように見え、過ちを認めるようになり(Mapsが良い例)、マッチングギフト制度やグローバル・ボランティア・プログラムを始めたほか、会社がまた特にクック氏が社会問題について発言するようになった。

優れた経営手腕

クック氏はその経営手腕で知られている。粗利益率から在庫回転までほぼあらゆる測定基準でこの水準を上回る企業は多くない。アップルは2015年度に3億台を超えるデバイスを販売したことを考えれば(考えてみればこれは1年間毎日ほぼ100万台以上を販売したことになる)、これほどの規模の経営のかじ取りは非常に難しい。

大型買収を行わない戦略

私が常日頃から気に入っているアップルの戦略の1つとして、大規模な買収を行わない点が挙げられる。Beatsを30億ドルで買収したことは別として(これがどうなるか私にはよく分からない)クック氏は引き続きより規模の小さい内包できる企業の買収は継続する。私は、ハイテク企業によるあまりにも多くの買収が、期待通り機能していないケースを見ており、企業文化面の相性が非常に重要なことと、アップルが独特な企業風土を持っていることを考えれば、同社は大型買収が機能しないより大きなリスクを負っている。

最近の業績は秀逸

2015年度、アップルの売上高は2,330億ドル(28.68兆円)(4年間で116%増)、粗利益率は40%(この4年間事実上横ばい)、純利益が530億ドル超(106%増)、1株当たり利益は133%増、配当と自社株買い前のフリー・キャッシュフローが700億ドル(110%増)でなおほぼ1440億ドルの手元資金を持つ。

もちろんより規模の小さな企業がこれよりずっと速いペースで成長を遂げているケースはある。アップルはまた同期間に研究開発費(R&D)への支出を232%増やしている。

競合との戦い

アップルのスマートフォン、タブレットPC/Mac市場での好調は続いている。より大きな画面のiPhoneは確かに非常に遅かったが、市場シェアを伸ばしている。iPadの売り上げはこの7四半期減っているが、市場シェアの首位は維持しており、どの他社製品も勢いを得ているようには見えない。

同社のMac部門は8四半期連続で成長しており徐々にシェアを伸ばしている。Macの市場シェアは絶対的には低く、iPhoneやiPadと共に創り、iPodを基盤として構築したエコシステムが引き続きアップルの売り上げ増に寄与すると思う。

新製品に可能性

クック氏がCEOに就任して以来、アップルが爆発的に売れる新製品を導入していないことに対して大きな懸念が表明されている。多くのアップル信奉者が同社に毎年画期的な新製品を開発、発売し、それが発売と同時にバカ売れすることを期待しているようだ。私はアップルのiPhoneの成功に匹敵するような新製品が出るとは思っていない。iPhoneが1億台売れるのにほぼ4年間かかった。

Watchがアップルのアイコン的製品になるにはもっと頑張る必要があるとの意見には同意するが最低でも第3世代後にどうなっているか見守ってもよいだろう。iPhoneも1四半期に1,000万台売れたのは2010年にiPhone 4が出荷されてからだ。

Apple Payについては引き続き伸び、アップルにとって意味のある製品になると思う。最近私はApple Payが新しいチップベースのクレジットカードよりずっと使いやすいことを知った。チップカードは取引完了まで時間がかかる。私のカードの取り出しが早すぎるのか、カード自体が機能しないのか、結局、従来のストライプベースのクレジットカードを使う羽目になった。またチップカードのPINを入力しないと(PINが何のためなのかさえよく分からない)セキュリティが手薄になる。アップルが強力金融機関を増やせば、Apple Payは利益率の高い収益源に成長するはずだ。そしてピアツーピア製品を加えれば、Apple Payにぴったりのアドオン製品になるだろう。

またアップルカーについての噂も絶えないが(この部門で雇用を増やしていることからこの分野を模索しているようだ)、私はこの理由でアップル株は買わない。むしろ私は、アップルカーの導入は同社にとって今後10年以上、財務上の足かせになりかねないと考える。

株主還元

スティーブ・ジョブズは配当や自社株買いを行わないことで悪名高かった。私は主な理由は、アップルがあわや倒産という事態があったことだと考える。事実、ジョブズがなくなるわずか1年前の2010年からアップルの手元資金は大幅に増えた。

クックCEOは配当と自社株買いを実施し、現在2,000億ドル規模となっている。株価収益率は市場を下回っていることから自社株買いプログラムは株価にはあまり役立っていないとする議論がある一方、私は自社株買いを行わなければアップルの1株当たり利益(EPS)はより低く、より多額の現金を持つ一方、より高いEPSを持つほどの価値がない、とのもう片方の議論を支持する。アップルはR&Dに十分支出していることと、大規模買収は同社にとって機能しない理由から現金を還元する必要があると思う。

私が抱いている懸念の1つは、多くの人々がアップルが自社株買いと配当に多額の支出を行い、現在、米国の手元資金が640億ドルの負債を考慮すると、約460億ドルのマイナスになっている点を見落としているように見えることだ。国外の現金を取戻して追加の税金を納める決断を下すか、米国政府が税法を改正しない限り、アップルの自社株買い向けの借り入れが制限される。

複数年では株価は市場を上回る

アップル株価は常に競合他社より上昇しているか、答えはノーだ。米経済学者のベンジャミン・グレアムは、市場は短期的には自動投票機で長期的には計量器だと語った。自分の気に入った銘柄や事後の株価、議論を裏付けるために時間枠を選ぶのは簡単だ。投資がそれほど簡単なら、誰もが大金持ちになれる。

私は、アップル株を一握りの銘柄とよりS&P総合500種とNASDAQと比較する方が良いと思う。また1年未満ないしある出来事に対してより複数年にわたる時間枠で見た方がよい。

クック氏が1月14日に暫定CEOに指名された2009年1月14日以来アップル株価は、848%上昇している。これに対しS&P総合500種の上昇率は148%でNASDAQは243%だ。

2011年8月24日にクック氏が正式なCEOに就任して以来だと、アップル株価の上昇率は122%、S&P総合500種は77%でNASDAQは107%だ。アップルはこの市場を上回る業績を維持できないかもしれないが、S&P総合500種とNASDAQと比べてかなり低い株価収益率で取引されていることからかなりの見込みがあると考える。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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