業務用タブレットの勝者はアップルなのか

Photo by Stephen Lam/ Getty Images


アップルが最新のタブレット、iPad Proを発表した。従来よりも大きくて速く、新たなフラッグシップモデルと呼ぶにふさわしい機能改善も多く行われている。発表会では、マイクロソフトやアドビの担当者が登壇し、大型化と高解像度化したディスプレイや、専用スタイラスのApple Pencilを称賛した。しかし、iPad Proの特筆すべき点はそれだけではない。iPad Proはアップルが初めて業務利用に特化して開発した製品であり、同社が法人市場を将来に渡って独占する可能性を秘めているのだ。

「これは、iPadの歴史において、iPad以来最大のニュースだ」とアップルCEOのティム・クックは、発表会で話した。iPad Proの機能は大幅に改良されている。12.9インチのスクリーンの解像度は560万ピクセルで、バッテリー持続時間は約10時間だ。アップルによると、従来モデルに比べて、グラフィックスパフォーマンスは2倍、プロセッサは1.8倍の処理能力だという。

Apple Pencilはスティーブ・ジョブズがPalm式のスタイラスに否定的だったことを考えると、かなり意外な製品にも思える。製品の販売開始は11月の予定だ。これら全ての機能が一つのパッケージとなり、業務利用に最適な製品が完成した。

最適と言える理由は、屋外で作業をする労働者や、出先で商談を行う営業担当者らのニーズに応えているからだ。これまでのタブレットは営業担当者には小さ過ぎ、出先で書類に記入するには不便だった。「それでも、営業担当者の多くは、2012年からiPadを使っている」とJason Lemkinは話す。

Lemkinは、自ら起業したEchoSign社を2011年にアドビに売却し、現在はStorm Venturesでエンタープライズ・テクノロジー分野のスタートアップに投資している。Lemkinは、iPad Proは法人サービスのベテランたちがアップルから待ち望んだ製品だと言う。
「以前から欲しかった機能がようやく実現したのだ。法人向けテクノロジーは、コンシューマー向けに比べて3-4年遅れていると言われるが、これはその良い例だ」

アップルは法人市場に本腰を入れだしたように見えるが、iPadのグローバルでの売上を見れば、iPadが業務用としてどれだけ使用されているか確認することができる。コンシューマー向け売上は、2014年をピークに縮小傾向にある。前四半期の販売台数は1,090万台で、前々四半期比13%減、前年同期比18%減という状況だ。その要因として、アップル自身や競合他社が大型スマホやiPhone 6+のような「ファブレット」を投入してタブレット需要を侵食してきたことなどが挙げられると調査会社Argus Insightsは分析している。

iPadのコンシューマー需要が頭打ちで、買い替えサイクルも長期化する一方で、タブレットの法人需要は高まっており、特にiPadは好調だ。調査会社Forresterのリサーチによれば、業務用として使用されるタブレットの割合は、2015年の14%から2018年には20%まで向上するという。また、Forresterが調査を行った現場担当者の半数以上は、最低でも週に一回はタブレットを業務で使用していると回答しており、その多くは会社から支給されていないため、個人用を使っているという。

タブレットの動向に関するレポートを書いたForresterのアナリストJ.P. Gownderは、モバイルワーカーが求めるデバイスは、使い勝手が良く、持ち運びが簡単で、企業向けトレーニングやテレビ会議を行ったり、大量のコンテンツを読むのに適した大型スクリーンを備えたものであるとし、iPad Proはこうしたニーズを取り込むことができるだろうと述べている。また、Apple Pencilによって、デザイナーや、漢字を使うユーザーにも支持されるかもしれない。しかし、Gownderは、マイクロソフトやサムスンのタブレットにもスタイラスが付いていると指摘し、iOSと互換性のないレガシーアプリを使っている企業にとって、iPad Proは適さないとしている。

iPad Proの価格は、最も安い32Gバイトモデルが799ドルで、別売のApple Pencilが99ドル、キーボードは169ドルとなっている。Lemkinは、より高額なラップトップからの買い替え候補として、法人顧客から支持される価格だとし、「かつては、社外で働く従業員に対してデバイスを二台与える必要があったが、12-18ヶ月後には、全ての企業がiPad Proを一台買えば済むようになるだろう」と述べている。

9月9日に行われたイベントで、アップルは競合他社を制したように見えた。マイクロソフトは、Surfaceや、タブレットとラップトップのハイブリッドであるSurface ProでiPad Proの機能を一部実装しているが、この日はMicrosoft Officeの幹部であるKirk Koenigsbauerがサプライズゲストとして登壇し、ワード、エクセル、パワーポイントを使ってデモンストレーションを披露した。続いてアドビの担当者が登壇し、iPad Proに敬意を表した。ティム・クックはプレゼンテーションの中で、IBMとシスコの名前も読み上げたが、アドビを含む三社は最近、アップルとの提携を発表している。

「法人向けのモバイルサービスを提供するスタートアップは、これからiOSにだけ対応すれば問題ないだろう」と前出のLemkinは話している。

文=アレックス・コンラッド(Forbes)/ 編集=上田裕資

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