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「ヒートテック」は、2003年の発売からロングラン商品となっている。写真は12年の共同記者会見の模様。東レの日覺昭廣社長(左)、ユニクロの柳井正会長兼社長(右)。

東レが復活した理由
オープン・イノベーション


昨今、GEやP&G、Philipsをはじめ、海外のグローバル企業の成功事例が語られ、オープン・イノベーションという考え方が急激に浸透している。日本国内でも、したたかに使いこなし、実績を積み上げる企業が現れ始めた。その一つが、東レである。


「このままでは会社はいつつぶれるのか」
「あと2年9カ月です」
 いまでこそ優良企業として知られている東レ。しかし、同社は2002年、創業以来はじめての赤字(単独)に転落。当時の会長と財務担当役員の間では冒頭の会話が繰り広げられていた。以降、東レは構造改革に乗り出し、成果を出す。その大きな柱が「オープン・イノベーション」だった。
 赤字決算直後に発表した中期経営計画では、研究開発戦略の中に「自前主義からの脱却」というフレーズを掲げ、いち早く社外との連携を積極的に進める方針に転換した。これは、当時の社員、とくに研究開発を担うものにとっては青天の霹靂だったという。1990年代に入社したというある社員は、「基礎研究から開発まで、すべてを社内で完結し、それをブラックボックス化するところが東レの強みである、との教えを受けていた」と語る。
 これほど自前主義が強かった当時の東レにおいて、自前主義からの脱却はまさに「振り子を右から左に揺らすような」(阿部晃一副社長)改革だった。
 では、どのように東レはオープン・イノベーションを始めたのか。そして、どのような成果を出したのだろうか。
 まず、東レは、オープン・イノベーションを推進するリーダーを社内で選抜し、経営トップのお墨付きを与えたうえで、社内の啓蒙、プロジェクトの実践を推し進めた。
 具体的には、研究所を回りながらの啓蒙活動や社内の研究課題の棚卸し、課題に対する解決策探索の支援、さらには、探し出したパートナー組織とのコミュニケーション支援まで行った。海外のオープン・イノベーションの先進企業が使う手であるが、エース級の人材の中からオープン・イノベーション推進リーダーを任命し、活動をリードさせるのである。
 こうした急激な変革に対して、当然社内の反発も小さくはなかった。しかし、社長や役員、研究開発のトップが何度も工場や研究所を訪問し、管理職はもちろん、現場の社員に粘り強く語りかけ、会社の置かれている状況を説明し、全社の方針転換を説いた。同時に、社長自らがマスコミで他社との連携による研究開発の成功例を発表するなど、内外に向けたメディア工作も行いながら、社員の考え方の変化を後押ししたのだ。
 東レのオープン・イノベーションの代表的な成果は、ユニクロとの共同開発で大ヒットし、累計3億枚を販売した「ヒートテック」。それ以外にも、DNAチップの事業化パートナーとしてアメリカの著名な遺伝子研究者と提携するなど、様々な成果が生まれている。
 同社はこれまでボーイング向けの炭素繊維開発、デュポンからのナイロン生産技術導入など、外部との連携で多くの製品開発を成功させていた経緯があり、社外連携の有効性を認識していたマネジメント層にとっては、当時蔓延していた自前主義偏重に対する危機感は強かった。そのため、これを機会に、大きな変革を試みたのだ。前出の阿部副社長は「一つの企業だけで大きな仕事ができる時代は終わった。これからは融合の時代だと考えた結果だ」と語る。


成功のための3つの要素

 ここで東レの活動から、日本企業がオープン・イノベーションを進める場合のステップを考えてみたい。
 筆者は、日本企業がオープン・イノベーションをうまく活用するためには、以下の3つの要素が必要だと考えている。これは、国内外のオープン・イノベーション先進事例を俯瞰した結果導き出した枠組みであるが、うまく進める組織には必ずこの法則が当てはまる。
(1)トップマネジメントのリーダーシップ
(2)推進チームの活動サポート
(3)現場の理解・モチベーション
 また、オープン・イノベーションを進めるためのエンジンとして、根底に「危機感」があることは言うまでもない。
 このフレームワークに沿って東レのケースを見てみると、この枠組みにピタリとあてはまることがわかる。まず、「(1)トップのリーダーシップ」が大きかったことは自明だ。会長以下、マネジメントグループが一丸となって「自前主義からの脱却」を叫び、中期経営計画には、オープン・イノベーションを意味する文言が記載され、明確に社外連携を呼びかけていた。
 また、「(2)推進チームのサポート」も効果的だった。研究者としても優秀な社員を抜擢し、権限を与えたうえで、社内の啓蒙から個別活動の支援まで担当させたのだ。推進チームの人選が明暗を分けるといわれているが、ここで間違いのない人選をしたことが、活動を円滑にしたことは言うまでもない。
 さらに、これだけ腰を据えて活動を続ければ、否応なく社員も危機意識を共有することとなり、結果として「(3)現場のモチベーション」も高まる。そして何よりも、「あと2年9カ月で会社がつぶれる」という危機感が活動を後押ししたのだ。
 昨今、オープン・イノベーションを始めようとしている企業も増えているが、これらの要素に留意して活動を開始、あるいは推進すると、スムーズな立ち上げができるかもしれない。もちろん、着実にこの枠組みに沿って実施することは容易ではないだろう。
 とはいえ、最後に、オープン・イノベーションを推進する企業の合言葉を紹介したい。「LearnbyDoing」、つまり、「やりながら学ぶ」ということである。これは、グローバルなオープン・イノベーション関連のイベントでよく耳にするフレーズであるが、自分たちをモチベートするために先進企業が好んで使っている。
 決して王道や必勝パターンなど存在しないオープン・イノベーションにおいては、まず動いてみることが何よりも重要だ。そして、そこから学びを得、改善を繰り返しながら進めるのである。ぜひ、日本企業のマネジメントの方々にも「やりながら学ぶ」の精神で、一歩前に進んでほしいと願っている。

星野達也 = 文

 

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