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経営・戦略

2025.03.14 14:15

中川政七商店の会長を50歳で退任した理由

2月末に中川政七商店の会長職を退任した中川淳(撮影=山田大輔)

2月末に中川政七商店の会長職を退任した中川淳(撮影=山田大輔)

PARaDE代表の中川淳が、企業やブランドの何気ない“モノ・コト”から感じられるライフスタンスを読み解く連載。この2月末で、中川政七商店の会長職を退任した中川は、その理由を「ビジョン達成のため」と語る。その決断に秘めた真意とは。人生100年時代に価値を生み出し続け、自分と社会の幸福を追求するために有用な人生の戦略について、お届けする。



「ビジョンを達成するために退く」と経営者やマネージャーに言われたら、普通は混乱してしまいますよね。「いや、達成するために進むのではないのですか?」という心の声が聞こえてきそうです。

2025年2月28日、私は23年間務めた中川政七商店の代表取締役会長を退任しました。まだ50歳なので経営者としては若輩ですし、皆さんから「まだ早いのでは」「なぜ?」と言われたのも確かです。しかし、この決断はもちろん突然ではなく、かなり以前から準備してきたこと。自分が退任することで会社のビジョン達成に近づけると考えたからです。この一見矛盾してそうな考えにどのようにして至ったのか。今回はその経緯について少しシェアできればと思います。

本気でビジョンを達成するために打席を譲る

一般的に経営者の重要な役割として、「ゴーイングコンサーン (Going Concern)」「売り上げと利益の最大化」「ビジョンの提示」の3つが挙げられます。ゴーイングコンサーンとは、企業の継続性のこと。経営者として可能な限り会社を継続させていくという大前提です。売り上げと利益をきちんと出せていなければ当然会社は存続できなくなるので、この2つは相関関係にあります。さらにビジョンがなければ進むべき方向性が定まらないので、経営の大前提として必要なのは言うまでもないでしょう。重要なのは、これらのバランスをどうとるのかということです。

私はビジョンが何より大切だと考えているので、普段からビジョン51%、売り上げ&利益49%の割合で、すべての意思決定を行うように徹底してきました。

明治16年に描かれた中川政七商店の様子
明治16年に描かれた中川政七商店の様子

コロナ禍明けのころ、私は中川政七商店のビジョン達成時の数字目標を下方修正をしたことがありました。これは一見すると後退しているかのように思えますが、実はビジョン達成のために現実味のない計画を出すべきではないという判断であり、ビジョン達成に真摯に向き合っているからこその判断でした。他にも上場目前のギリギリのタイミングで、上場することでビジョン達成が遠のくと判断し、取り止める決断をしたこともありました。とにかく私はビジョン達成のために、並々ならぬ力を注いできたという自負がありますし、コミットすることの難しさも熟知しています。

そんな私が退任という大きな決断を下したのも、もちろんビジョン達成のため。というのも、私がこのタイミングで辞めることが、長い時間軸で考えたときに、中川政七商店の「日本の工芸を元気にする!」というビジョン達成に繋がると考えたからです。

もちろん今のことだけを考えるのなら、私もいた方が経営のパフォーマンスは出せるのかもしれません。しかし、現在の社長をはじめとする経営陣は、必ず今の私を超えてくる。そう思っているので、未来の彼らの可能性には敵わないと考えています。

それは自分の身の程を知っているということもありますし、自分が今まで通りにビジョン達成に向けた経営者としての強度を維持し続けられるのか、という問いでもあります。何より大切なのは、いつまでも現状にしがみついているのではなく、若い世代に打席を譲っていくことであり、それが今後社会的責任を果たす上でも重要だと考えています。

次ページ > 人生の「ゲームチェンジ」

文=中川淳 構成=国府田淳

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