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経営・戦略

2025.03.14 14:15

中川政七商店の会長を50歳で退任した理由

2月末に中川政七商店の会長職を退任した中川淳(撮影=山田大輔)

先日も学生が経営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」で若者とたくさん面談しましたが、私の学生のころとは比べものにならないくらい、みな意識が高くて、優秀な方が多いことに驚かされます。でも彼ら、彼女らが10年後、20年後に満足のいく実力を発揮できる社会になっているかというと不安がよぎります。今後、日本の人口は減少していきますし、高齢化社会でシニア世代が現役で居続けることを考えると、ちゃんと若者に良い打席が回ってくるのだろうかと。

政治や会社組織を見渡してみても、権力にしがみつき、いつまでも現状のポジションに居座り続けるようなケースが増えることも否めないでしょう。

それらを鑑みると自分の今回の選択は間違ってなかったと確信しますし、自分の能力より未知の可能性にかける方が純粋にワクワクしています。

人生の「ゲームチェンジ」で輝き続ける

「人生100年時代」と言われますが、私は人生で何度か「ゲームチェンジ」をしながらより良い晩年をデザインしていく必要があるのではないかと考えています。ビジョンや成果にコミットして、同じ打席に立ち続けることは想像以上に過酷です。もし過酷と感じていないのなら、それは本気でコミットできていないのでは?と思うほど。経営者として打席に立ち続けることは、決意や覚悟をもった人にしか許されないものだと思っています。だからこそ、自分が打席に立ち続けることは相応しくないと判断した際に、ゲームチェンジをする必要があるのではないかと思うんです。

みなさん、流動性知能と結晶性知能という言葉をご存じですか? 流動性知能は暗記力・計算力・集中力など主に情報処理に関わる能力で、20代をピークに低下し続けると言われています。結晶性知能は理解力や判断力など経験や学習によって獲得する知能で、70歳ごろまで伸び続けた後にゆるやかに低下するそう。つまり歳を重ねるごとに流動性知能は衰えて、結晶性知能は伸びるわけですから、歳を重ねるなかで何かしらのゲームチェンジをしないと、今までの延長線上でのパフォーマンスは出せなくなります。

一般的に50代の中ごろから流動性知能が急速に低下するということを鑑みると、今回の退任の決断のタイミングは低下し始めた早い段階で手を打てたということで、それなりの妥当性があると言えます。打率が落ちることを直視せずに従来のゲームを続けるのではなく、ちゃんと打席を降りる決断をして、自ら違うゲームを始めることが重要なのではないでしょうか。

現在の中川政七商店 奈良本店
現在の中川政七商店 奈良本店(撮影=淺川 敏)

正直に言うと、ゲームチェンジをした後の人生については、まだはっきりと決めてはいません。でもそれが不安というより、むしろ今までとは違う戦い方で、新しいビジョンにコミットして、新しいルールをつくり、新たな社会的価値を生み出せるかもしれないという可能性に心を踊らせています。

健康寿命が72歳だとするとまだ四半世紀は生きると考えたとき、ずっと一本調子でやっていくのは絶対に無理があります。肝心なのは自分の能力や幸福の在り方を見極めて、適切なタイミングでゲームチェンジの決断をして実行していくことなのではないかと思います。

人間誰しも今までの延長線上に未来を投影しながら生きていきたいものですが、図らずも衰えていくことが明白なのであれば、その世界線はさっさと手放す覚悟が必要なのかもしれません。

新たに価値を生み出せる、より幸福を感じられる道を見つけ、新たなビジョンと共に歩んでいければ、歳を重ねても常に高いパフォーマンスを発揮しながら人生をまっとうできるでしょう。そのようなマインドセットとスキルを磨いていくことが、人生100年時代の個人及び社会にとって大切なのではないでしょうか。

連載:拡がる“ライフスタンス”エコノミー

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文=中川淳 構成=国府田淳

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