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政治

2025.02.26 10:00

ウクライナの鉱物資源を巡る米国との取引、両国がともに利益を得るには

ウクライナ東部ドネツィク州のカオリン鉱床で射撃の訓練をするウクライナ軍兵士。2023年8月14日撮影(Viktor Fridshon/Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナ東部ドネツィク州のカオリン鉱床で射撃の訓練をするウクライナ軍兵士。2023年8月14日撮影(Viktor Fridshon/Global Images Ukraine via Getty Images)

ウクライナの鉱物資源の権益の一部を米国に譲渡する協定の可能性が報じられる中、過去に結ばれた同様の事例を振り返ることは有意義かもしれない。鉱物資源を担保とする融資は、今に始まったことではないからだ。

米ニューヨークに本部を置く天然資源統治研究所は2020年、主に中国とロシアが資金を提供した52件の同様の協定(アフリカで30件、南米で22件)を評価している。米国とウクライナの間で協議されている協定がこれらの事例と異なるのは、鉱物資源に関する条件が事前に付されることなく、資金が提供された後で提案されたことだ。

当初はウクライナの支援国への返済は、西側諸国の銀行にある3000億ドル(約45兆円)に上るロシアの凍結資産から支払われる予定だった。ところが、この凍結資産はウクライナや同国内のロシア占領地の復興に向けられる可能性が出てきた。ウクライナと米国の鉱物資源協定が戦後の復興計画を軸に据えたものになれば、双方に利益をもたらすことになるかもしれない。

この取引には、軍需産業や発電、人工知能(AI)開発などに欠かせない黒鉛やウラン、チタン、リチウムといった戦略的に重要な鉱物も含まれている。だが、米地質調査所(USGS)が「レアアース(希土類)」と定義する鉱物資源は、今回の取引の中でも目玉として取り沙汰されているが、23年時点のレアアースの市場規模は世界全体でもわずか33億9000万ドル(約5100億円)程度だったという事実を見過ごしてはならない。今回の協定の中に、半導体に使用されるガリウムなどの重要な金属が含められているとしても、トランプ大統領がこの取引によってウクライナから引き出したいと考えている5000億ドル(約75兆円)の見積もりには遠く及ばないと考えられるからだ。

ウクライナに埋蔵する鉱物資源の価値を約26兆ドル(約3900兆円)などと大胆に見積もっている記事も散見されるが、これはまったく根拠のない数字だ。経済地質学では、「資源量」(地質学的に存在するとみられる資源の量)と「埋蔵量」(現在の技術で採算の合う方法で採掘できる資源の量)の違いが重要とされる。これを明確に区別するために、オーストラリアの「豪州鉱石埋蔵量合同委員会(JORC)規程」のような認証制度があるのだ。

ウクライナには、チタン、マンガン、卑金属、石炭などが豊富に埋蔵している。とはいえ、今回の取引で提案されている5000億ドル規模の鉱物資源の権益を米国に譲渡できるかどうかについては、経済的に実行可能であるという明確な見通しがない。さらに、ウクライナの鉱物資源の多くはロシアが実効支配する東部地域に埋蔵しており、これが同地域での戦争を激化させたことは明白だ。

ウクライナ自身も戦後の復興と発展のために膨大な量の鉱物資源を必要としており、米国はその点も考慮に入れるべきだ。米国の採掘企業や建設企業が国内で使用するために環境保護措置を講じた上で、責任を持ってこれらの鉱物資源を調達すれば、ウクライナを助けると同時に米国の投資を促すことにもつながる。また、ウクライナのチタン産業をはじめ、両国で雇用促進効果も期待できるだろう。

この取引の中心となるのは、銅、亜鉛、ニッケルなどの卑金属だが、石こうや骨材などの他の工業用鉱物も視野に入れる必要がある。こうした幅広い議論を重ねることで、ウクライナの復興も支援しつつ、トランプ大統領が回収を望む5000億ドルの金額に近づく可能性も高まるだろう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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