筆者が民間企業で働いていた時代、ある若手社員が、上司から次のような言葉で注意を受けていた。
「君のこの手抜きの仕事、もしこれが外注業者の仕事だったら、すぐに契約を切られるよ」
たしかに、職場には、社内だから大目に見てもらえることに甘えた社員が、少なからず存在する。
なぜ、このエピソードから始めたのか?
筆者は、ある学園の理事長も務めており、毎年3月になると5000人の卒業生を世に出す立場だからである。それゆえ、卒業していく学生には、全員に「マイ・カンパニー」という生き方を勧めている。
これは、会社に就職しても、「自分自身」を一つの会社と考え、その「マイ・カンパニー」の「中核商品」「成長戦略」「長期計画」を明確に定めて人生を生きていくというスタイルのことである。
そして、こうした生き方は、これからの時代の「3つの変化」の中で、極めて重要になっていく。
第1が、「雇用崩壊時代」の到来。
筆者の若い頃は、まだ日本企業にも余裕があり、人事部長も新入社員に対して「3年は食わせてあげるから、その間に、しっかり仕事を覚えなさい」といった温かい言葉をかけていた。
しかし、近年では、不況に苦しむ企業も多くなり、時間をかけて新入社員を育てる余裕は無くなっている。また、何年勤めても、会社から不要と思われれば、簡単に早期退職を勧められる状況でもある。さらに、職場には契約社員や派遣社員が増えており、こうした社員は、能力が足りないと判断されれば、容易に「切られ」てしまう。
第2が、「人生百年時代」の到来。
誰もが百歳まで生きる可能性がある時代を迎え、仮に最初の会社で定年まで勤めても、第2、第3の人生を切り拓かなければならない。それは、誰もが人生で、何度も転職をして生きる時代を意味する。
第3が、「人工知能時代」の到来。
論理思考と知識修得の能力では人間を圧倒的に凌駕する人工知能(AI)が、急速に発達し、すべての職場に普及していく時代。このAI革命は、人材に求められる能力を、根底から変えていく。
それは、すなわち、論理思考力や知識修得力を土台とした「学歴的能力」よりも、直観判断力や技能体得力などの「職業的能力」こそが、人間に求められる時代になるということであり、端的に言えば、「学歴だけで通用する時代が終わる」ということであり、「専門知識による資格だけでは戦えない時代になる」ということである。
しかし、こうした実社会の劇的な変化にもかかわらず、教育の世界では、いまだに「有名大学に入り、有名企業に就職できれば、人生は約束される」との幻想が続いており、論理思考と知識修得の力を競う受験競争が、過熱しながら続いている。
では、これからの時代に活躍する人材とは、どのような人材なのか? その条件を、「経歴」「能力」「意識」の3つの点から述べておこう。