第1は、「学歴」よりも「経験歴」や「仕事歴」を持つ人材である。なぜなら、人間が経験や仕事から体得する専門的技能は、「学歴的能力」とは異なり、AIでは決して代替できないものだからである。
第2は、「人間関係力」や「組織協働力」を磨いた人材である。なぜなら、AIによって代替できない能力とは、顧客に対する気配りなどのホスピタリティの力や、チームの仲間と円滑に協働できる力だからであり、こうした力を支えるのは、良い人間関係を築き、他者と協調・協働する力だからである。
第3は、「主体性」と「自立意識」を持つ人材である。なぜなら、AIが決して代替できない能力として「リーダーシップ」が挙げられるが、真のリーダーシップとは、「自分自身の人生を、自立し、主体的に切り拓く意志」を持った者のみが発揮できる力だからである。
さればこそ、これから実社会に羽ばたいていく学生諸氏には、たとえ組織に所属しても「自分自身」を一つの独立会社と考え、その「マイ・カンパニー」の「中核商品＝専門的技能」を磨き続け、明確な「成長戦略＝キャリア戦略」を持ち、50年の人生の未来を見すえた「長期計画＝人生計画」を定めて歩んでほしい。
筆者が実社会に出たとき、初めての給料日に同僚の一人が呟いた。「この紙切れ一枚で、自分の人生を会社に売り渡したのか…」。そうではない。我々は、もっと自立した自由な生き方ができる。その思いが、それから50年の歳月、筆者を導いた。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム（ダボス会議）専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8600名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp
