提示された給料の値上げを一度も要求したことがないのだ。新たな仕事を手に入れられるかどうかが気になって、もっとお金が欲しいとは言い出せなかった。だが、報酬規定が一律に定められている公的な仕事以外で雇用主が最良の条件を提示することはめったにない。
では、どうすれば新たな雇い主との関係を損ねずに給料交渉に持ち込めるのだろうか?
雑誌『Wired』の元マーケティング・ディレクター、ジム・ホプキンソンは著書『Salary Tutor』の中で給料交渉のやり方を魅力的な語り口で記述している。
一番興味深いのは、ホプキンソンが自らの経歴を語ったところだ。大学卒業後、無報酬のインターンを経てオフィス用品店StaplesのIT部門に勤務し、その後、いくつかの職を経てコンデナスト社のマーケティング部門にたどり着くまでが綴られている。2011年11月に彼はWiredを去り、今はコンサルタント兼ブロガーとして活躍している。『Salary Tutor』の随所で彼は自らの経験から学んだことを披露している。
ホプキンスが推奨するのは、求人情報サイトのSalary.comやPayscale.com, Glassdoor.comなどの情報や個人的なネットワークから給与に関するデータを集め、給与データ表を作成することだ。役職が上がるにつれてそれがどう変化するかをグラフにして、そこに行きつくには何をしなければならないか、どれだけの経験やスキルが必要なのかを具体的な職種についてリスト化する。
そこまでやらなくてもと私は思うが、職探しに際して求めるポジションの給料がどうなっているのかを事前に詳しくリサーチすることはもちろん必要だろう。それによって自分が最終的に手に入れたい報酬の額やその限界について考えることになるし、休暇やフレックスタイム制など、給料以外の条件も見えてくるだろう。
しかし、給料交渉に際して最も重要なことは、最初に数字を提示しないことだとホプキンソンは言う。以前の給料の欄には「業界水準並」、希望する給料の欄には「交渉可能」と記入し、決して具体的な数字は書かないことだ。
最初の面接で給料について問われたらどう答えるかについてもホプキンソンは示唆している。いくら欲しいかという問いかけには、「どんなことが求められるのかによって報酬の額にもかなりの幅があるようですね。希望金額をお伝えする前に、私が果たすべき役割についてまずはしっかりと把握したいと思います」と答えよう。
また大企業の多くは社則の中で取り扱いに注意を要する社内情報を外部に漏らさないよう従業員に指示している、とホプキンソンは指摘する。もし、人事担当者が今の給料を教えてくれなければ次の段階には進めないと言ったとしたらこう答えよう。
「申し訳ないのですが今の会社との契約でそれはできないことになっています。ただ給料について交渉する段階に入れば、具体的な金額を示すことは問題無いかと思います」
ホプキンソンによれば、最も重要な段階は採用する側が金額を提示した時にやって来る。
より高い金額にもっていくためのひとつの方法は、提示された一番高い金額を口に出し、そこに「うーむ」と一言付け加えることだ。
たとえば給料として6万5000ドルから7万5000ドルを考えていると言われたとしたら「7万5000ドル、うーむ」と答える。そしてこれまでの経験や業績を強調しながら、金額をつりあげることをホプキンソンは推奨する。肩書きやボーナス、休暇などの交渉も含めて粘り強く交渉することが肝心だ。