経済・社会

2025.02.14 14:15

行政データは問題解決への「宝」になる 神戸市の取り組みが変えたもの

ダッシュボードで仕事をする職員

7億8000万円の税収増にも貢献

データ活用で大きな成果を上げているのが収税業務だ。市民税や固定資産税などで滞納があれば、市は電話や郵送で催促をして、納税しない滞納者には、国税徴収法を根拠に、銀行の口座残高や勤務先からの給与支払を調査し、預金や給与、さらに不動産の差押えをすることになる。

神戸市では約90名の職員が滞納整理の業務に従事しているが、人口規模が大きな自治体は、どこもこの収税業務に頭を悩ませている。なぜなら、万を超える滞納者を管理する専用のシステムでは、分割納付の履行状況や差し押えた財産の種類をひと目で把握できない。その都度、データをエクセルに抽出するしかなかったからだ。

そこで神戸市は、滞納者の納付や差押えの情報をシステムから抽出し、「タブロー」を使って可視化した。

すると、この業務に従事する職員は、自らが担当する約500人の滞納者の状況を一覧で把握できる。給与から予定どおり納付がされているのか、収入すべき額の何パーセントを確保できたのか、これから連絡すべき新規の滞納者もリアルタイムでわかる。

タブロー導入の最大の効果は、職員のモチベーション向上にあった。実はこれを提案したのは、税部門の職員ではなく、神戸市全体のデータ活用を推進している部門だったのだ。今回の業務改善を推し進めた税務部課長の松木徳子は「最初の頃は、職員のなかでも何のためにやるのか理解できない」という声もあったという。

職員間の議論でも重視されるデータ

職員間の議論でも重視されるデータ

ところが、職員たちの変化は早かった。最初に変わったのは経験年数が浅い職員たちだ。滞納整理の仕事は、真面目にするほど滞納者からの反発が増えるので億劫になりがち。そんなときに毎月のグラフの上下が行動の起点となり、ベテラン職員の上手いやり方を学ぶようになると、職場全体の底上げにつながった。

松木はグラフ化項目を選ぶときに「ベテランからの助言を得られたのが大きかった」と話す。実際に2023年度の差し押さえ件数は約8200件と、前年比で約2100件増加した。

部下約5人を束ねる係長は直属部下の担当案件だけでなく、収税部門の全職員の状況が閲覧できる。自分たちの毎月の成績が一目瞭然となる。すると、それを監督する部長や課長からは「いちいち指導しなくても頑張るようになった」との声が挙がった。

税収増の効果も垣間見える。2022年から2023年にかけて全国の20の政令市で税収額は増加基調にあったが、この取組みの成果もあってか、神戸市の増加率は政令市平均の2.0パーセントを上回る2.25パーセントとなった。金額では7億8000万円に相当する。

100件を超えるダッシュボード

100件を超えるダッシュボード

このような神戸市で、いま最も力を入れているのは、データの利活用を進める部署をさらに増やすことだ。職員の誰もがタブローを使った「ダッシュボード」をつくれるようにしたいという考えだ。行政データを「宝」と見て、施策を決定して事業を進める。神戸市役所の全体が、近い将来、そんな素晴らしい職場になると感じた。

連載:地方発イノベーションの秘訣
過去記事はこちら>>

文・写真=多名部重則

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