英国サンダーランド工場が寄せる期待——
英国では、この合併案を労働組合が注視している。というのも、日産が昨年11月、全世界で9000人の人員削減(全体の約6%)を発表したことが、北東イングランドのサンダーランド工場に不安を広げているのだ。この工場は1986年に日本企業として初めて英国に進出した拠点だが、現在は稼働率が半分程度に落ち込んでいる。しかし、もしこの合併がホンダを英国の自動車生産に呼び戻し、サンダーランド工場の余力を活用することになれば、工場にとって追い風となる可能性がある。
ホンダは1985年に南東イングランドのスウィンドンに工場を建てたが、ブレグジット後には閉鎖した。結果として工場のみならず、地元サプライチェーン全般で多くの失業者を産むことになった。
しかし日産は英国に留まった。その背景には、日産が、ブレグジット後も英国に留まるよう英国政府から巨額の支援を受け取った事実もあることが、最近明らかになった。
英国はブレグジット前、欧州で最も多くの日系自動車メーカーが集まる国だった。日本の対英投資の付加価値は、英国において、技能や教育などの分野で重要な役割を果たしている。日産も例外ではなく、最近は地元自治体と連携して「MADE NE(製造、自動化、デジタル化、電動化 北東)」を牽引すると発表した。
サンダーランドでEVやバッテリー製造に特化したスキルを小学校から学べるオープンアクセス型の研修施設を設立し、産業イノベーションプロジェクトも資金と設備でサポートする予定だ。
結果、この日産-ホンダ合併案が英国経済にもたらす恩恵は大きい可能性がある。2024年7月から9月にかけてゼロ成長となっており、製造業の技能が不足している英国経済に、多くの利益をもたらすことも期待できるだろう。
セーラ・パーソンズ(Sarah Parsons)◎英国のリンカンシャーに拠点を置くイーストウエスト・インターフェイスのマネージング・ディレクター、在英国日本大使館主催「英国ジェットプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)同窓会」英国元会長。企業の異文化コミュニケーションと戦略をサポートしている。多くの大手日系企業や在英日本人エグゼクティブとのビジネスのほか、英国企業と提携したい日本企業へのコンサルティングも行なってきた。また、英国広報協会(Chartered Institute of Public Relations)のアソシエイトでもあり、SOAS、シェフィールド大学、ウォーリック大学、クランフィールド大学などで日本ビジネス、異文化コミュニケーション、国際人事管理、労使関係について講義を行っている。