Forbes JAPANが主催する「WOMEN AWARD 2024」では、そんな閉塞した社会に風穴を開ける新たなリーダーを選出。
個人部門で「パイオニア賞」に選ばれたのは、若き起業家の井口恵。ドローン業界と宇宙業界への女性の参入を支援するコミュニティ運営の会社を立ち上げ、人工衛星まで打ち上げた。宇宙開発未経験の女性による打ち上げ成功は日本初の快挙だ。
ひと口に「ジェンダー平等」といっても、誰が言うかによって印象はだいぶ違ってくる。女性の権利を声高に主張する人がいる一方で、井口恵は「別に女性だけが活躍すればいいと思っているわけじゃない」と穏やかに否定する。「ドローンも宇宙も、女性比率が極端に低い業界だから活動を行っているだけなんです」。
だから彼女の活動も、本棚にある向きの違う本を正すくらいに軽やかだ。井口にとってジェンダー平等の実現は、世の中を自然なかたちに戻すことに過ぎない。
大学在学中に公認会計士資格を取得し、卒業後は4大監査法人の一角で働き始めた井口。「当時は朝の3時、4時まで働くことが当たり前」だった。もともと自分の成長に貪欲で、人の2倍働くことも苦ではなかったものの、年齢を重ねたときにプライベートを犠牲にした働き方はしたくなかった。また、社内に女性管理職が少ないことから自分の将来像を描けず、女性比率が高いLVMHへと転職を決めた。
すると今度は超がつくほどのホワイト企業。子育てしながらでも働きやすい環境だったが、20代の井口にとっては物足りなく感じられた。そのうえ、ここでも役員は全員男性。女性が8割の会社でも状況は変わらないんだな──。「ジェンダー平等を実現したい」と起業を決意した。
脳裏に浮かんだのは、監査法人時代、難関資格の公認会計士に合格したにもかかわらず、夫の海外赴任や子育てを理由に退職していった先輩や同僚の姿だった。起業したら、プライベートも仕事も犠牲にしない働き方を追求しようと思った。
起業にあたって目をつけたのが、急速に伸びている「ドローン」だった。男性が9割を占める業界だが、操縦技術に男女差はなく、性別がハンデになることもない。ならば、と女性のためのコミュニティ「ドローンジョプラス」を立ち上げた。同じ理由から、宇宙業界で働きたい女性を対象にした「コスモ女子」も立ち上げた。
面白いことに、井口自身はどちらの業界にもそれほど興味があったわけではないという。将来有望かつ女性が少ない業界という観点で、戦略的に選んだのだ。
現在、ドローンジョプラスには約100人の女性ドローンパイロットが在籍。操縦体験参加者は1万人を超える。一方のコスモ女子には、これまで宇宙とは縁のなかった女性が集まり、今年8月には人工衛星の打ち上げに成功した。コミュニティを足がかりに、宇宙ベンチャーなど業界への転職を果たした女性も増えている。
今後も女性が少ない業界にはコミュニティから参入を後押しし、いずれは業界を代表するロールモデル輩出を目指す。
いぐち・めぐみ◎1987年、大阪府生まれ。横浜国立大学卒業。あずさ監査法人、LVMH勤務を経て2016年にKanatta創業。女性限定コミュニティ「ドローンジョプラス」「コスモ女子」運営のほか、宇宙飛行体験などを提供する宇宙サービス事業部を運営。