甲子化学工業は、従業員がパート社員も含めて16人(2024年9月現在)という小規模な会社です。営業部門は持たず、すべて商社から仕事を受注していました。
しかし、医療業界への参入では、商社を介さずに自分たちで顧客を探すところからスタートしました。
医療現場の見学や、大学の医療分野の人材開発プログラムなどに参加し、医療業界の“声”を聞くと、「今、医療の現場では、こんなことに困っている」という情報がダイレクトに入ってきました。これが、のちの甲子化学工業の方向性を決めるきっかけになったんです。
新型コロナウイルス感染症が広がりはじめた2020年3月、医療機関向けにフェイスシールドの寄付活動をスタートし、20万個近いフェイスシールドを寄付する大がかりなプロジェクトになりました。
無償提供なので、売上はもちろん赤字です。しかし、同時期に生産を始めた自社製品が大きく売上を伸ばす結果になりました。
それが、「ウイルスが付着しやすいドアの取っ手部分に手を触れないようにしたい」という医療現場の“声”から誕生した製品、「アームハンドル」です。ドアの取っ手に取り付けることで、腕でドアを開閉できるようになるアタッチメントです。
──ヒット商品が生まれたことで、売上はどのように推移したのですか。
2019年まで売上は年約3億3000万円をキープしていました。2020年は売上の減少が見込まれていましたが、「アームハンドル」のヒットで4億3000万円という過去最高の売上を達成することができました。
地域の課題だった「ホタテの貝殻」を生かすホタメット
──南原さんが手がけたもう一つの製品に、ホタテの貝殻から作られたヘルメット「ホタメット」がありますが、どういう経緯で開発したのでしょうか?きっかけは、私のSNS発信でした。年間で約25万トンが廃棄される卵の殻でつくったエコプラスチックを紹介した投稿が注目を浴びて、「私の地元ではこんなゴミがあるんです」「これはプラスチックに使えないですか?」などと数々の反響が届きました。その中で、北海道の猿払村(さるふつむら)がホタテの貝殻の処理に困っているという話を知りました。
猿払村はホタテの水揚げ量日本一に何度も輝くほどの、ホタテの一大生産地。ホタテの貝殻は水産系廃棄物として年間で約14万トンも発生し、堆積場所の確保や地上保管による環境への影響が、地域の課題になっていました。
ホタテの貝殻の主成分は炭酸カルシウム。これは、新しい素材に生かせるのではと考えました。
──ここでも、地域の声に耳を傾けることが新製品の開発につながったのですね。なぜ、ヘルメットに加工しようと考えたのでしょうか。
「アームハンドル」での成功体験が、本当に大きかったと思っています。社会が抱える課題・問題を解決するという考えに集中したことが、結果的に会社の利益にもつながりました。
ヘルメットを選んだのは、「次は防災用品をつくりたい」と考えていたからです。日本は地震が多いという大きな課題を抱えた国です。「災害時に身を守れるものをつくりたい」という思いと、ホタテが貝殻で自身を守っている姿から着想したのが「ホタメット」でした。