しかし、女性活躍が進むほど、現場はハレーションを起こす。支店長に昇進したとき、取引先のなかには、女性が支店長であることに驚き、心ない言葉を言ってくるところもあったという。
「私が支店長になることで男性行員のポストが減るのも事実。面白くない人もいたでしょう。不満の声を直接耳にしたこともあり、もともと積極的な性格だった私も守りに入ってしまい、会議でも目立たぬようにしていました」
悩む吉岡に変わるきっかっけをくれたのが、元上司の「そんなに周りから愛されたいのか」という言葉。そして既知の経営者の「お客様のためになることをおやりなさいよ」という言葉だった。
ふたりの言葉は、きちんと仕事をしていれば応援してくれる人がいること、そして、行内ばかりを気にして向き合うべき相手を間違えていたことに気づかせてくれた。再び、持ち前のおせっかい精神を取り戻した吉岡は、率先垂範で営業活動を行い、気づけば、赴任する先々の店が優秀な営業成績で表彰されるまでになっていた。
積極的な姿勢は部下や同僚にも向けられた。悩み事を一緒に考えていくのはもちろん、チームビルディングも徹底してやる。ときには男性部下を引き連れ、率先して歌って踊る“宴会芸”を披露することもある。
「自分をさらけ出さなければ、部下だって腹を割って話してくれませんからね。銀行は、ひとりでは何もできません。組織を強くしていくには、職場の風通しの良さが不可欠です」
今後について吉岡は、「組織人としての集大成に入ってきたので、銀行や地域へ全力で恩返しをしていく」と語る。代表取締役として役割を全うしながら、地域全体で女性の活躍を推進していこうというのだ。
例えば、異業種交流会など社外の勉強会では、女性の参加者が少ない。地元企業の女性たちが役職にかかわらず学び、活躍する場を設けられれば、彼女たちが能力を発揮する機会が増える。成長意欲が所属企業に伝われば、社内での登用のきっかけにもなるだろう。それは、吉岡が山崎頭取に引き上げられたように、ガラスの天井を割りやすくすることでもある。
「能力に男女差はない。あるのは経験の差だけです」
代表取締役という新たな立場を得て、吉岡はこれからも組織と地域を鼓舞し、変化に挑み続けていく。