経営体制の移行を進めてきた核融合の京都フュージョニアリング。創業者に依存しない自律型組織を構築し、産業全体を巻き込んだビジネスに突き進む。
2019年の設立から5年。核融合スタートアップの京都フュージョニアリングが、自社のみならず産業全体を発展させていく方向にかじを切り、ギアを加速させている。
脱炭素社会に向けたエネルギー源として、世界から注目を集める核融合。約40年にわたり研究に携わってきた京都大学名誉教授の小西哲之と、戦略コンサルなどを経験してきた長尾昂が共同創業した同社は、核融合反応を起こすために必要なプラズマを加熱する「ジャイロトロンシステム」をはじめ、プラント装置の開発やエンジニアリングを展開。核融合の実現を周辺設備やサービスで支えるビジネスモデルで、英国原子力公社との包括提携を筆頭に複数顧客を獲得。世界的にもユニークなポジションを築いてきた。
創業以来、長尾が代表として資金や人材を含むビジネス・コーポレート面を、小西が技術面を率いてきたが、事業基盤の整備に一定のめどがつき、いよいよ技術開発を強化するタイミングになったことを受けて、23年10月から経営体制を徐々に移行。現在は長尾が取締役会長、小西が代表取締役CEOになった。
「創業者に依存しない自律的な組織がコンセプト。社内の人材登用や権限委譲を進め、各部門のリーダーたちのもとで、スピード感を維持しながら持続的に成長していく体制ができました」と長尾は話す。
ここからは実際の核融合炉を想定した試験プラントの研究や技術開発に磨きをかけるほか、海外連携などに注力する。新代表の小西は「信頼できるメンバーに本当によく支えてもらっています。核融合エネルギーの実現に向けて、当社に何ができて、どこに勝ち筋があり、何をやらなければいけないかは明確に見えている。あとは、そこに向けて事業を拡大していくだけ」と言い切る。
その足がかりとなるのが、直近に発表された「FAST」プロジェクトだ。国内で30年代までに、実際にプラズマを燃やして発電まで行うプラントの建設を目指す。核融合反応そのものを起こすプロジェクトは各国でいくつか動いているが、世界で初めて、その先の発電までを明確に掲げた。設計には東京大学教授の江尻晶など、日本のそうそうたる大学研究者も加わり、これが成功すれば「確実に核融合発電の実用化に向けた大きな一歩になる」(小西)という。
また、「核融合は少し特殊な領域で、1社だけでプラントを完成させることは、まず不可能なんです。我々の会社が大きくなるだけではダメで、この産業でしっかりと活躍するプレイヤーを増やし、エコシステムをつくらなければいけない」と長尾は言う。その一環として、24年3月には業界団体「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会」(J-Fusion)が発足した。小西は会長に就任しており、日本全体で核融合のサプライチェーンを構築し、一大産業に育て上げたい考えだ。小西は会社の代表としての顔だけでなく、日本の核融合産業の代表として、国際的な議論の場に足を運ぶことも増えた。
会社としても産業としても、大きく成長させる──。「夢のエネルギー」には、技術的ハードルに加え、国際政治や安全保障も密接に関係し、実現に向けた道程は複雑かつ困難。その重責を背負いつつも、小西は「大変だけれど、それ以上に面白くてワクワクしている」と、研究者らしい好奇心をのぞかせながらハツラツと向き合っている。
長尾 昂◎共同創業者、代表取締役社長として事業立ち上げ、戦略立案、資金調達、人材採用を推進。現在は取締役会長。
小西哲之◎共同創業者、Chief Fusioneerとして技術、企画、戦略を担当。2023年10月よりCEO。核融合研究の第一人者。