国内

2024.01.16 14:00

唯一無二の核融合イネーブラー。グローバルへの横展開を本格化

長尾 昂|京都フュージョニアリング

Forbes JAPAN2024年1月号の特集「日本の起業家ランキング2024」で4位に輝いた京都フュージョニアリングの長尾昂。

カーボンニュートラルな発電が可能な技術として注目される核融合。主要装置の開発やエンジニアリングを提供する京都フュージョニアリングは、新たな事業ステージに突き進んでいる。


2023年10月、核融合スタートアップの京都フュージョニアリングが経営体制の移行を発表した。同社は、戦略コンサルファームやエネルギースタートアップなどを経験してきたビジネス畑の長尾昂と、京都大学エネルギー理工学研究所の名誉教授で約40年にわたって核融合の研究に携わってきた技術畑の小西哲之らが19年に共同創業。以来、長尾がCEOを務めてきたが、今回の体制変更で小西がCEOに、長尾は代表取締役会長になった。その背景を、長尾は「事業基盤を整えるフェーズから、事業を実行するフェーズに入りました」と語る。

核融合エネルギーは、脱炭素社会に向けた新たなエネルギー源として、世界的な注目を集めている。その研究開発においては、米国や欧州、日本などの7極が共同で公的プロジェクト「ITER」を進めるほか、民間でもスタートアップが盛り上がりを見せ、数千億円もの資金を調達している企業もある。そのなかで京都フュージョニアリングは、世界的に見ても競合がほぼいないユニークなポジションを築いてきた。

核融合スタートアップのほとんどは、核融合反応を起こす炉そのものの技術開発に力を入れているが、同社が主力事業としてきたのは、炉から発電につなげるための熱を取り出すブランケットなど、プラント装置の開発とエンジニアリングだ。核融合の産業がエネルギー供給による商業化に成功するのは数十年先と見られるが、実験装置をつくるために京都フュージョニアリングの技術は、欧米の核融合スタートアップや国の研究機関からすでに多くの引き合いがある。また、ブランケットは数年で交換が必要となるため継続的な需要も見込まれるなど、創業わずか4年ながら、盤石なビジネスモデルを築いてきた。

直近では、23年5月にシリーズCで105億円の資金調達を実施し、従業員も半年で倍増して100人を超えた。技術優位性を有するジャイロトロン(加熱装置)も海外の研究機関やスタートアップから注文を受け、「量産とまでは言えませんが、製品を横展開できる状況になり、ニーズが連鎖的に発生することを確認できました」と長尾は振り返る。

同年9月には、試験プラントを京都やカナダに建設することを発表。これにより一連のプロセスの実証を加速させて、装置の製造開発だけでなく、核融合プラント全体を束ねられるプラントエンジニアリング会社としての強みも磨く。面的な展開を行うことで業界内の競争力をさらに高め、独自のポジションを強固にする狙いだ。

日本の研究開発型スタートアップでは、技術畑出身の創業者がビジネス畑出身の人材にCEOのバトンを渡すケースが多く、その逆は珍しい。しかし、長尾に言わせれば、小西のCEO就任はビジネス展開をさらに加速させるための配置だ。「核融合研究の世界的権威であり、英語も堪能な小西が経営判断のカードをもてば、海外での交渉や業務提携をより速やかに進められる」。フェーズに応じた最適な体制への移行は、事業化サイドで長年の経験を積んだ長尾だからこそできた意思決定だろう。「回り出した小さなサイクルをより大きなものにしていく。核融合の早期実現に貢献していきます」。


長尾 昂◎アーサー・ディ・リトル・ジャパンで戦略コンサルティングに従事した後、エネルギー企業のエナリスで東証マザーズ上場、資本業務提携、新規事業構築・営業などを主導。2019年に京都フュージョニアリングを共同創業。

文=三ツ井香菜 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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