ブダイ科の魚は働きもので、藻類やそこに固着して生息するポリプをエサとし、いわばサンゴの群落の掃除役として一生の大半を過ごす。
これは、その環境に生息するすべての生物にとって「ウィン・ウィン・ウィン」の関係だ。サンゴは清潔で健康な状態を保つことができ、サンゴ礁に棲む魚たちも手入れの行き届いた生態系を享受できる。ブダイ科の魚は、十分なエサにありつける。
この魚はまた、岩や死んだサンゴを覆う海藻を食べる際、鋭い歯で岩やサンゴ骨格まで削り取り、一緒に咀嚼する。動物界でも有数の頑丈な歯を持っているのである。
だが、本当の意味で驚きなのは、むしろ消化器系の出口のほうだ。ブダイ科の魚は、口に入れた海藻をサンゴ骨格や岩も含めて細かくすりつぶしたのち、白く輝く砂として排出する。これが、私たちがこよなく愛する美しい砂浜を作り出すのに一役買っているというのだ。
1000本にも及ぶ、動物界でも有数の強力な歯を持つブダイ
海の世界で最も強力な歯を持つ動物がサメだと思っているなら、その考えを改めるべきだろう。ブダイ科の魚の歯は、これまで存在が確認された中でも最も硬い生体鉱物(バイオミネラル:貝殻や歯など、生物によって形成される無機化合物)でできているからだ。それは木材やアルミ、ガラスよりも硬い。ブダイ科の魚1匹が持つ歯の数は、最大で1000本にも達する。しかも、小さな歯が鎖かたびらのようにつながって板状になり、オウムの「くちばし」に似た「歯板(しばん)」を形成している(英語名のパロットフィッシュは、この特徴的な歯の形に由来している)。この頑丈な歯が、サンゴ骨格や岩から海藻を削り取るのに役立つのだ。
何かの表面に食い込んだ時のブダイ科の魚の歯の張力(ある素材が裂けることなく持ち堪えることができる最大限の負荷)は、とても大きい。1平方インチ(約6.45平方cm)あたり530トンの圧力に耐えられる。これは、1インチ角の空間に88頭のゾウが載っているほどの負荷だ。
ただし、知られている中で最も硬い生体鉱物は、カサガイという、海に棲むカタツムリの仲間の歯だ。こちらも、硬い岩の上に生えた海藻を削り取って食べている。カサガイやブダイ科の魚が持つ歯に関して、私たち人間が持つ知識が広がれば、建設や電子機器、あるいは歯の詰め物などに使われる、長寿命の素材の開発に進歩がもたらされるかもしれない。