例えば、モビリティ分野。オンライン中古車市場で、Ocean Protocolを介在させて前所有者の車のデータにアクセスできるサービスがあるようだ。おそらく、トラブルや修理歴などのデータではないか。ヘルスケア業界においては、パーキンソン病に関するデータが公開されたとのこと。保険分野では、スマートホームのデータが公開され、それをAIが分析し高齢者のケアに用いているらしい。小売業では販売データを小売り業者が公開し、そのデータから利益を受けているという記述も見られる。
そこには具体的な企業名も掲載されているので、興味ある方はご覧いただきたい。ほかにも、Ocean Protocolではエネルギー、気象、製造、農業など多種にわたる領域のデータを扱っているようだ。
スーパーサイクル・エコノミーの時代
AIの存在感が増す昨今、Ocean Protocolの先見性はまさに時代の流れと符合している。Molecule社ほかが進めるDeSciについても「早すぎる」という意見もあるだろうが、世界的な高齢化や感染症の流行リスクなどに対して、政府機関や製薬会社は注視すべきだろう。Molecule社の場合、参加者たちは同じプロジェクトを支援し、その成果を共有するわけだが、Ocean Protocolにおいては、必ずしもそのデータ所有者が、どのようなプロジェクトにデータが用いられるのかにコミットする必要はない。所有者はデータを保持したままその価値を換金化できるため、これまで門外不出としていたデータの流動化が促進される点が肝である。
この連載の第1回目でも述べたように、web3や生成AIのようなテクノロジーが複合して用いられることが「テクノロジー・スーパーサイクル」の真骨頂である。さらに、そこに金融や知財管理が加わることで、DeSciのような新たな価値転換への道筋が示されたり、またはデータ・エコノミーに誰もが参画できる道が開かれる。
それは、新たな社会概念の創出である。
つまり、テクノロジー・スーパーサイクルはAIを核にほかの新規テクノロジーが組み合わさることによって、思いもよらなかった課題解決を産み落とすばかりではない。そこに金融や知財管理を加えることで、これまでの社会には存在しなかった新たな市場と概念を提示しうるのだ。わたしはそれを「スーパーサイクル・エコノミー」と呼びたい。
おそらく、わたしたちがこれまでの経験則により諦めていたことや、工業化社会の名残のような制度と慣習、あるいは思い込みの限界といったものを打破する新たな突破口が「スーパーサイクル・エコノミー」から導き出せるのではないか。
そこには社会課題解決とビジネスの両立に向けた商機が秘められているはずだ。その領域は、旧来のやり方にがんじがらめになった大企業よりも、スタートアップの独壇場となるだろう。2000年前後にウェブがリアル社会における企業群の寡占状況に風穴を開けたように、スーパーサイクル・エコノミーもまた既得権益者たちの牙城を破壊する可能性をはらんでいる。