ブラジルの化石保護法と、物議を醸したマーティルの見解
「テトラポドフィスの化石」に科学的な価値が存在することに、疑問の余地はない。一方で、この化石がどう入手されたかということは、国際的な批判を集めた。ブラジルは1942年以降、国内に存在する古生物学的価値の高い標本を守るため、厳格な化石保護法を施行している。この規制の下で、政府の許可なく化石を輸出することは禁止されており、また同国で産出した化石を研究する際には、ブラジル人科学者との共同研究が義務づけられている。規制の目的は、ブラジルが価値ある自然史標本の管理能力を取り戻し、同国の化石標本の研究において、国内研究者が重要な役割を担えるようにすることだ。
しかし、テトラポドフィスの化石は、おそらく数十年前にブラジルから違法に輸出されたものとみられる。化石の出自が問題視されたとき、マーティルは、標本の発見者としてだけでなく、侮蔑的な発言でも報道の見出しを飾ることになった。あるショッキングなインタビューのなかでマーティルは、公然とこう言い放ったのだ。「化石がブラジルからどうやって(あるいはいつ)来たかなんて、本当にどうだっていい」
化石の科学的重要性は、同国から持ち出された経緯にまつわる法的・倫理的懸念をはるかに上回るというのが、彼の主張だった。
さらに、研究にブラジル人研究者が参加していなかった点を追及されたマーティルは、再び物議をかもす返答をした。国籍のみに基づいて共同研究者に含めるという発想をあざけり、「では、民族的理由で研究チームに黒人も入れろと言うのか? 障がい者と女性と、たぶん同性愛者も入れて、全方位にバランスを取れって?」と発言したのだ。彼のコメントは極めて侮辱的なものと受け止められ、科学コミュニティの内外から猛批判を浴びた。
時は流れて2020年。マーティルは、自身の言葉が不適切だったことを認め、否定的反応を招いたことを後悔していると述べた。それでも、化石の出自に関する彼の姿勢に対する批判は止まず、多くの人々が、ブラジルに化石を返還することを求めた。
共同研究者のニコラス・ロングリッチは、化石はいずれ本来の故郷に戻ることが望ましいと、融和的な見解を述べた。ロングリッチの意見は、各国の法律の尊重と、倫理的配慮のある共同研究の推進という共通認識の浸透を裏付けている。
2024年現在、テトラポドフィスの化石はブラジルに返還され、ブラジル国立博物館に収蔵されている。
(forbes.com 原文)