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2024.10.27 14:15

証券会社からエンタメ界で起業へ。stu黒田貴泰の20代の過ごし方

金融業界に染まりきる前に

1社目で金融の世界に入ったのは純粋に経験を得るためだったので、その間もクリエイティブ系の仕事は好きで続けていました。

そんな自分を見ていた周りの人からは、「実業に対する嗅覚は金融の世界では身につかないから、業界に染まりきってしまう前に実業で成果を出した方がいい」とアドバイスをもらいました。その影響もあって、契約社員の収入がなくても生活できるようになったときに起業を決断しました。

ただ、起業したといっても現在で言う「ビジョン」「ミッション」「バリュー」みたいなものはありませんでした。単純に言うと、“筋トレ”を積み重ねていた結果、ヒットが出たり、成功したビジネスがあったりという感じでした。

“筋トレ”と言うのは、インプットとアウトプットを繰り返し、ブラッシュアップしていくこと。例えば日々の業務の中で誰かと会話をするときに「いかにわかりやすく話すか」、クリエイティブ的なことなら「デザインスキルをいかに伸ばすか」「トレンドをどう事業に取り入れていくか」を考える意識を持つことです。

今振り返ると、人類の0.1%以下しかいない“天才”でなければ20代で大した戦略なんてつくれないと思います。だから、その場その場で自分ができる成長を繰り返すしかなくて、自分もそうしていて良かったと思います。

地道な「筋トレ」でより広い世界へ

最近若手の起業家やクリエイターの方と話をするときには、「狭い世界での成功に満足せず、自分が活躍するコミュニティがより大きな世界のどの程度の位置にあるのかちゃんとマッピングした方がいいよ」と伝えています。

かつて一世を風靡した下北サブカル界隈にも「堕サイクル」という落とし穴がありましたが、狭い世界で褒めあっていると成長や成功の機会は限られる。自分が今いるコミュニティがどれくらいのサイズ感なのかを意識しながら、どこでどうやってキャリアを築いていくのかを俯瞰的に考えた方が良い。

例えばインフルエンサー界隈はかなり限定的なコミュニティが形成されていて、その中でマウントを取り合いながら「世界で戦っている」ような勘違いが多い印象です。一方でフォロワーや影響力の外側で大規模なビジネスモデルやエコシステムを獲得しているより優秀でクレバーなコミュニティがたくさん存在していてそういった世界は「インフルエンサー界隈」と必ずしも地続きにはなっていません。

狭い世界でも一定の経済的な成功は得られるし、承認欲求も満たせる。そこで本人が満足であればいいのですが……。長く続けていく意識があるなら、より広い世界を見た方がいいですよね。

今の若い世代は、SNSの影響力だけでビジネスやクリエイティブを簡単にやろうとし過ぎているようにも思います。その延長線上で成功や、チャンスを掴んだ人もいますが、中身がないビジネスが圧倒的に多くて。テクノロジーを器用に使うことはできているし、SNSをマーケティングの道具として使うのも上手いけど、本質的なプロダクトやサービスをつくって、売上を立てることはほとんどの人ができていない印象です。

例えSNSを使って数千万、数億という売上をつくることができても、刹那的なアテンションで立ち上げたプロダクトの継続性は怪しい。継続するためには本質的な所でコンテンツの強度がないといけませんが、バランス的に破綻しているものが多い。ビジネスコンテンツを形にするための基本的な筋肉が足りていないんです。デザインでもワークフローでも組織力でもなんでもいいんですが、コンテンツを長生きさせられるのは結局の所基本的な身体能力でしかないというのが自身のキャリアで運よく様々なヒット作品に関わって認識させられた結論です。最近ではBlackpinkのアートワークを手がける韓国のデザイン会社とJVを立ち上げたのですが、韓国クリエイティブとの向き合いでこの基本的な筋力の差を味合わされています。ポジティブに考えるとstuとしてはまた一段上のコミュニティに飛び込んで行けたと解釈しています。

自分がいるクラスタや領域で評価されることを意識しつつも、ある程度のレベルで次のクラスタや領域にチャレンジする。井の中の蛙にならないためにも、華美な成功より地味な継続を大事にしてほしいですね。
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文=尾田健太郎 編集=田中友梨 撮影=小田光二

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