民間主導型の課題解決、行政の準市場的な委託も含めてですが、厳しいことを言うと「市場の中」にいる子どもたちしか救うことができないわけです。地域のなかで子ども支援をしていると「本当に声なき声とされている子どもたち」はたくさんいる。NPOセクターは、社会問題の本質ともいえる「その声」をきちんとすくい上げて、代わりに声を上げることが今まで以上に必要になっている。でないと、社会的包摂はいつまでも実現できないままです。
小沼:経済性と社会性の両立を志向するインパクト・スタートアップ側からも、「社会課題解決のゼロイチ」をつくるもっと手前にある段階の社会問題を発見し定義し発信する「社会問題のR&D(研究開発)」機能があるのではないか、といわれたことがあります。「社会課題解決をする専門機関」という役割だけで
なく、「政府や市場から聞かれない声を聞いて社会問題として定義・発信し、どのように解決していくかを考える専門家」としての役割を社会のなかで果た
していく必要があります。
李:また、例えば、企業主導のこども食堂への応援はとてもいいことである一方、それですべての子どもたちの人権が守られる社会になるのだろうか、という「根本を問う」のも私たちがやるべきこと。その先に「市民社会のあるべき姿」のゴールがあるか、と。だからこそ、声なき声を聞き、問題解決に取り組む
とともに、その本質をしっかりと政策提言や企業、社会への提言につなげなくてはいけない。事業としての価値提供をしていく存在でありつつも、社会構造そのものを変えていく「運動的な側面」もしっかりともち直さないといけない。
「社会関係資本」と「マルチセクター協働」
小沼:ふたつ目は、「社会参加の後押し、ソーシャルキャピタルづくり」の側面です。「人々が社会活動に参画する仕掛け」や「地域での人と人とのつながり」「人のつながりの強化・機能させる動き」を生み出すことです。ひとつ目の役割は、抗生物質のような西洋薬で特定の病気を治療するとたとえてもいいかもしれません。ですが、NPOの役割のもうひとつのアプローチとして、体質改善をする漢方薬的に、共助の仕組みが機能するための土台づくりをし、社会の体質を変えることもあるのではないか。どちらも大事ですが、前者は資金がつきやすいのに対して、後者はつきにくい。市民の社会参加を後押しして、みんなで社会をつくっていくという、いわゆる民主主義の基盤部分をエンパワーメントしていく役割こそ今後ますます重要になると考えます。