社会問題を解決するスピードよりも、問題の深刻化、複雑化、多様化が進んでいるという現実があります。やれどもやれども「根本的な問題解決」が進んでいない。市民社会セクターは、プレイヤー自体は多くも少なくもないが弱い。大同小異みんなでつながって、しっかりと政治や企業に働きかけて、影響力をもつためにはどうしたらいいか、そう考えていたところだったので、子どもの貧困問題を解決するために、NPO業界全体という観点からも考えられることは意義深いと共同代表に就任しました。
渡部カンコロンゴ清花(以下、渡部):私が18年に設立したWELgeeは、紛争・迫害、命の危機などから逃れ、希望をもって日本にやってきた難民たちが、経験や専門性を生かして日本で人生を再建するプロセスに伴走しています。
具体的には、難民の若者たちに向けたキャリア教育の機会やメンターシッププログラム、採用コーディネーション、企業に対しての定着支援などを運営しています。私は新卒でNPOを創業し、かつ、難民問題というニッチな領域に取り組むなかで、どんな役割を果たせばいいか、を常に模索してきました。事業づくりや組織運営、リーダーシップなどにも悩むなかで、一歩先を歩んできたNPOの先輩たちがさまざまなことを教えてくれ、なんとか生き延びれた時があった。こうした関係性を次世代につなげていく必要性を感じていることが共同代表就任の理由のひとつにあります。
「ペストフの三角形」と「声なき声を聞く」
小沼:新公益連盟やNPOが大企業と連携し、行政、政治との距離を縮めてきたのは進化であると同時に、NPOの存在が権威側に近づきすぎているという認識もありました。そんななか「我々は誰の声を代弁しているのか」「どういう方向に行くのか」というところをあらためて今、議論をしている段階です。
その出発点にあるのは、スウェーデンの政治学者・ビクター・ペストフが提唱した「ペストフの三角形」というフレームワークです。1. 国家・行政、2. 市場・企業、3. 地域・コミュニティの3つを頂点とした三角形において、その中心にNPOや市民社会セクターを置くことで、バランスをとるという整理。現在は市場が大きくなりバランスを欠いている。その力を押し戻す必要はないですが、押し切られて社会がバランスを崩すことは避けなければいけない。中心の位置で三角形のバランスをとっていくために何ができるのか、を考えることが必要です。
渡部:「NPOの役割」について今、3つの方向性に整理しています。ひとつは、「社会のなかでまだ聞かれていない声を聞き、行政や企業がサービスを届けられないところの問題解決に取り組む」という点です。ここを磨いていくことが重要になるのではないか、と考えています。