経営・戦略

2024.10.16 14:15

「物価」の不思議─消費者はステルス値上げにどれくらい気づくか

GettyImages

消費者はステルス値上げに気づいていたのか

SNSを見ると、小型化は消費者を騙すためのものであるかのようなニュアンスの投稿が目につきます。ですが、本当に企業は消費者を騙そうとしているのでしょうか。そして、その思惑どおりに消費者は騙されているのでしょうか。私たちの手元には、さきほど紹介した約2万件の世代交代の事例があり、それぞれの事例で販売数量がどう変化したかもわかっています。このデータを分析すれば、消費者が騙されていたのか、あるいはそこに隠された意図に気づいていたかどうかを判定できるはずです。
advertisement

具体的には、消費者を次の3つに類型化し、それぞれのタイプの割合を推計するということを行いました。
Getty Images

Getty Images

第1のタイプの消費者は、小型化にまったく気づいていません。

第2のタイプは、小型化に気づいています。この消費者は、たとえば、シャンプーの世代交代があったとして、世代交代の前後で表面価格は変化なし、容量は10%減であれば価格が実質的に10%上昇したとみなします。その上で購入量(本数)を減らすのですが、その際に、本来であれば容量の10%減を考慮すべきです。たとえば、購入する本数を5%減らすと、消費できるシャンプーの量は、それに1本当たりの容量の減少分を加味した、15%の減少になります。ところが、この消費者は、容量が10%減少していることを考慮せず、その結果、購入量(本数)が過小になります。この消費者は、シャンプーを1本使い切るまでの時間が短いことに気づき、そこではじめて購入量を減らしすぎたと後悔します。

最後に、第3のタイプはもっとも賢い消費者で、実質値上げを見抜くだけでなく、シャンプー1本の容量が減っていることも勘案しながら購入する本数を決めます。
advertisement

それでは、消費者の3タイプは、どのような割合になるでしょうか。

※データをもとに推計すると、第1のタイプの割合は約1割、第2のタイプが約8割、第3のタイプが約1割となりました。第2のタイプと第3のタイプを合わせると全体の9割なので、ほとんどの消費者は実質値上げを見抜いていたということを意味しています。米国人を対象とした類似の研究では、消費者は小型化に気づかないという結果が報告されており、日米で消費者の注意深さが大きく異なることがわかります。




渡辺努(わたなべ・つとむ)◎東京大学経済学部卒業。日本銀行勤務、一橋大学経済研究所教授等を経て、現在、東京大学大学院経済学研究科教授。ナウキャスト創業者・技術顧問。ハーバード大学Ph.D. 専攻は、マクロ経済学、国際金融、企業金融。著書に、『世界インフレの謎』(講談社現代新書)、『市場の予想と経済政策の有効性』(東洋経済新報社)、『新しい物価理論 物価水準の財政理論と金融政策の役割』(共著、岩波書店)、『慢性デフレ 真因の解明』(編著、日本経済新聞出版社)、『検証 中小企業金融』(共編著、日本経済新聞社)、『金融機能と規制の経済学』(共著、 東洋経済新報社)などがある。

『物価とは何か (講談社選書メチエ 758) (渡辺努著)』
物価とは何か (講談社選書メチエ 758) (渡辺努著)』

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事