経営・戦略

2024.10.16 14:15

「物価」の不思議─消費者はステルス値上げにどれくらい気づくか

需要シフトが原因で小型の新商品が投入される場合は、前世代の商品の販売も継続されることが少なくありません。つまり、企業は大きいサイズと小さいサイズの両方を販売することで商品の多様化を図り、消費者の選択肢を広げていると言えます。

※これに対して、実質値上げの場合は、前世代の商品を継続して販売する理由はどこにもありません。と言うよりも、前世代の大きなサイズの商品が同じ値段で店頭に並ぶのは都合が悪いので、前世代の商品は生産打ち切りとなります。そこで私たちの研究では、1.旧世代と同じブランド名・同じ商品名で、容量・重量を変化させた商品を新商品として投入する、2.その際に旧世代の商品を存続させない、という条件にあてはまることを世代交代として定義しました。

この定義に基づき、世代交代の事例を約2万件抽出し、その結果を整理したのが図4-16です。図では世代交代の事例を、容量・重量が減ったもの、増えたもの、変わらなかったものに分類してあります。世代交代の件数は、2000年代前半は低い水準でしたが、2007年に増加しはじめ、2008年には大きく増加して2800件に達しました。2008年の増加の主因は、小型化をともなう世代交代です。


海外から輸入する穀物や原料、エネルギーの価格が高騰したのもこの2008年でした。これらに大きく依存する企業、とくに食品メーカーでは、製造原価が上昇した一方で、それを製品価格に転嫁することができず、商品の小型化という選択をしたと考えられます。

その後、世代交代の数はいったん減少するのですが、2013年からふたたび増加しはじめ、2014年、2015年では高水準になります。ここでも増加の主因は、小型化をともなう世代交代です。2013年はアベノミクスと日銀による異次元の金融緩和がはじめられた年です。金融緩和にともなって円は大幅に安くなり、輸入原材料に多くを依存する企業の原価を押し上げました。そうした中で、食品メーカーを中心に、ふたたび商品の小型化が選択されたのです。

日銀の金融緩和の目的は物価を引き上げることだったので、緩和が円安を通じて輸入原材料を押し上げるというのは日銀の目論見どおりです。日銀はさらに、円安にともなう原価の上昇が製品価格に転嫁されることを期待していました。ですが、そこは読みどおりにいきませんでした。実際に起こったのは、値上げは値上げでも、表面価格一定でサイズを小さくするという異形の値上げだったのです。
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