ネットで暗いニュースや悲観的な情報ばかりを延々と追ってしまう「ドゥームスクロール」や、スマホが手元にないと不安になる「ノモフォビア(スマホ依存症)」、大量の通知に圧倒される「過剰通知」に、スマホの使い過ぎによる「デジタル疲労」など、たしかに良いことばかりではない。「幻想振動症候群(ファントムバイブレーション症候群)」も、その一つだ。
「幻想振動症候群」とは何か?
ポケットの中に入れたスマホがブルッと震えたり、通知音が聞こえたりした気がして確認してみるけれど、着信もメッセージも、SNSの通知すらもない──そんな経験はないだろうか。きっと何らかの不具合だろうと考えてしまいがちだが、たいていの場合はそうではない。これこそが幻想振動症候群だ。人とコンピューターの関係やサイバー心理学に関する査読付き学術誌Computers in Human Behaviorに2012年に発表された研究論文によると、幻想振動症候群とは、そもそも通知が届いていないのにスマホの振動を感じたり通知音を聞いたりしたように錯覚する現象をいう。俗に「textaphrenia(テキスタフレニア、テキストメッセージ依存症)」や「ringxiety(リングザエティ、着信不安)」とも呼ばれる。
この不可解な現象について、論文の著者らは「感覚刺激の誤認、または感覚刺激がない場合は触覚の幻覚」と表現している。驚くべきことに、この研究では参加者の約89%が少なくとも2週間に一度はこの現象を経験していることがわかった。
スマホのようなごく身近なアイテムが幻覚の原因になるというのは、かなり衝撃的に思えるかもしれない。けれども統計データからは、こうした経験をした人が少なくない事実が浮かび上がってくる。
オンライン掲示板Redditに立てられた幻想振動症候群に関する議論スレッドに、あるユーザーが「2週間に1回? 少なくとも毎日1回はあるけど」と投稿したところ、似たような体験に困惑したというコメントが殺到した。「ポケットにスマホを入れていなくてもバイブを感じると、本当に怖くなる」「ポケベルの時代にはビープレプシーと呼ばれていたよ」という書き込みもあった。
「幻の振動」は明らかに、私たちが考える以上に一般的な現象で、決して目新しいものではないのだ。