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2024.08.16 17:30

なぜ日本人は25年間渇望してきた「インフレを嫌う」のか

実際には、この25年間である。1990年代後半以降、13人の首相が物価の安定を目指した。どの首相も、競争条件の平準化や技術革新の促進、生産性の向上よりも、日銀にさらなる緩和を促すことに時間を費やした。

1999年、日銀は主要中央銀行として初めて金利をゼロに引き下げた。そして、その2年後には世界で広がる量的緩和の先駆者となる。このような自由な資金供給は、経済の立て直しは急務であるという議員たちの認識を失わせた。企業の最高経営責任者には、リストラやリスクを取るインセンティブがほとんどなかった。

そのうぬぼれ的な強気が、今の記録的な株価上昇とぶつかり合っている。

自民党は過去10年間、コーポレート・ガバナンスの強化に成功した。企業に株主資本利益率(ROE)を向上させるよう働きかけ、日経平均株価は1989年の史上最高値を上回った。

しかし、平均的な日本人の給与はこの間、毎年低迷した。この経済的な問題によって、岸田内閣の支持率は20%台半ば以下に低迷し、最終的には首相の座を失った。

来月、自民党は後継者を選ぶことになる。そのリーダーには、経済改革プロセスを復活させる方法を見つけ出すという責任が課せられている。日本を悩ませる政治的麻痺を考えれば、言うは易く行うは難しであろう。

世界情勢も同様だ。アジア最大の経済大国である中国は不動産危機と消費低迷のダブルパンチに苦しんでいる。欧州は足踏みをし、米国経済には警告のサインがちらつく。

岸田首相の後任が誰になるにせよ、問題なのは、多くの家計がインフレを目に見えない増税とみなしていることだ。まともなエコノミストなら、デフレを良しとしない。債券投資家にとっても株式投資家にとっても、さまざまな意味で悪夢だ。

しかし日本では、多くの消費者がデフレを受け入れるようになったということが、過小評価されている。生活費を引き下げることで、賃金上昇の少なさを相殺したのだ。賃金が低迷し、税率が高い日本では、消費者物価の低迷は減税に等しかった。

インフレの復活は、日本の政府が望んでいたものを手に入れたことを意味する。難しいことをやってのけたのだ。しかし問題は、これからどうするかである。インフレが日本の大衆に受け入れられるためには、賃金の上昇が物価の上昇に追いつかなければならない。確かに、ここにはジレンマがある。日本には賃上げが必要だが、生産性向上と結びつかない限り、給与の増加はインフレリスクを悪化させるだけなのだ。

日本の生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも最低水準にある。2022年、消費者物価が急騰するなか、生産性は1970年以来の低水準に沈んだ。

主要な経済改革を行わなかったことが、2024年の日本経済に跳ね返ってきている。2021年10月の就任から現在まで、岸田内閣は官僚主義的体制からの脱却や生産現場の効率化といった課題にほとんど手をつけていない。彼の後任は、自分の任期が前任者のそれよりも経済的に有効に使われるよう、直ちに行動しなければならない。

今のところ、日本の大改革の話は「口先ばかり」のように見えてしまう。

forbes.com原文

翻訳=江津拓哉

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