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2024.08.23 16:55

「電話×AI」で認知症の早期発見を。家族の絆をつなぐ新旧技術の融合

NTTコムビジネスソリューション本部の横山彰之、日本テクトシステムズ取締役副社長の生田目知之(写真左から)

日本から世界に誇れる共創プロジェクトに光を当てる、2回目の「Xtrepreneur AWARD 2024」。8月23日に発売した『Forbes JAPAN』2024年10月号では6つの受賞プロジェクトを発表した。

ダイバーシティ&インクルージョン部門には、電話xAIで認知機能をチェックする「脳の健康チェック」サービスが選出された。NTTコミュニケーションズと日本テクトシステムズが手を組み、実現させたものだ。

異なるカルチャーの組織が手を組み、1 社では成しえなかったインパクトを世の中に起こしていく──挑戦者たちの物語を紹介しよう。

5人に1人、これは2025年に予測される日本の高齢者に占める認知症患者の割合だ。そうした認知症患者の急増に、AIと固定電話、つまりレガシーと最新技術の組み合わせで歯止めをかけようとするサービスがある。NTTコミュニケーションズと、高齢者・認知症領域で事業を展開する日本テクトシステムズの協力で開発された「脳の健康チェック」は、利用者が電話をかけて簡単な質問に答えると、わずか数分で認知機能のチェックを完了する。

なぜ、今の時代に「電話」なのか

認知症は進行性の疾患であり、早期に発見し、適切な治療を受けることが鍵になる。しかし初期症状があっても、受診までには「病院に行く(連れていく)」「医者と対面する」「病院に行くのを近所に見られたくない」など、いくつも物理的・心理的障壁がある。自宅で診断が受けられるスマホアプリもあるが、高齢者がひとりで操作することは難しい。NTTコムの横山彰之は「高齢者になじみ深い電話であれば、どこでも簡単に認知機能チェックができ、気づきを与えられる。最適なインターフェースではないかと着目しました」と語る。

開発のきっかけは、NTTコムの社員が認知症の祖父母の介護に疲弊していく父親の姿を目の当たりにしたことだった。同社から認知症領域のアプリ開発に強みをもつ日本テクトシステムズに声をかけ、22年9月から一般向けトライアルを開始。約2年で計50万コール以上利用があった。

「脳の健康チェック」は、日本テクトシステムズ開発の認知機能AIチェックツール「ONSEI」のAPIを搭載。電話で日付と年齢を答えると結果がわかる簡易版と、複数の数字を覚える問題で認知機能を5段階で確認できる詳細版がある。AIは回答内容に加え、発話時の各音声の特徴やパターンを解析。認知症の分類精度(正解率)は93%に上る。現在は保険会社の利用者や、地方自治体を通じてその住民が利用できる法人向けサービスとして提供されている。

日本テクトシステムズの生田目知之は、「早期発見で認知症の進行を抑制できれば、社会保障費も抑えられます。電話なので家族が本人に気軽にチェックを促せるほか、結果もすぐ出るため、万一のときは対策をどうするかなど、家族間の対話を引き出しやすいことも特徴です」と紹介。

一方の横山はサービスの今後について、「認知機能の検査にはネガティブな印象がありますが、家族との会話などからより自然に判別できたり、新たなコンテンツパートナーと連携し、より楽しく質問に答えてもらえる仕組みづくりに挑戦したい」と抱負を語った。

認知症は世界共通の社会課題。新旧の技術のかけ合わせが、家族の絆をつないでいく。


横山彰之◎NTTコムビジネスソリューション本部 第一ビジネスソリューション部 ビジネスデザイン部門主査。21年より現職。

生田目知之◎日本テクトシステムズ取締役副社長。DeNA子会社のモバオクの代表取締役を経て、24年3月より現職。

文=堤 美佳子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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