地域活性/モビリティ部門には、東日本旅客鉄道とさとゆめによる「沿線まるごとホテル」プロジェクトが選出された。
異なるカルチャーの組織が手を組み、1 社では成しえなかったインパクトを世の中に起こしていく──挑戦者たちの物語を紹介しよう。
無人駅のホームに降り立つと、笑顔のコンシェルジュが迎えてくれる。駅舎にはホテルのフロントがあり、電動トゥクトゥクに揺られて里山の道を進むと、今夜の宿、築100年超の古民家が現れる──。
そんな一風変わった旅を満喫できるのが、JR東日本と地方創生を手がけるさとゆめによる「沿線まるごとホテル」だ。東京都多摩地域を走るJR青梅線沿線をひとつのホテルに見立て、駅や集落ごとに異なる旅体験を提供する。2024年5月にはレストランとサウナ棟がオープンし、05年春には客室棟も開業予定だ。
リピートを生む「線と面」の仕掛け
同沿線では過疎高齢化が進み、インフラ維持が課題だった。JR東日本の会田均は、イベントで一時的に集客できても一過性で終わることに悩んでいた。「1万人が1回来て終わりでなく、100人が100回訪れる沿線にしたい」。そこで着目したのが奥多摩の隣、山梨県小菅村で「700人の村がひとつのホテルに」のコンセプトで地域活性化を支援していたさとゆめだ。同プロジェクトは人気で、小菅村の観光客が5年間で倍増する要因のひとつになった。
さとゆめ代表の嶋田俊平は「点ではなく、線と面で展開する手法がリピーターを生む強み」だと話す。青梅線沿線は酒蔵やワサビ田など観光資源は豊富だが、個々の発信力には限界がある。さとゆめが各駅や集落に点在する知られざる観光資源を見つけて磨き、鉄道という「線」でつなぐ。それをJR東日本がPRすることで、ブランディングや集客などの相乗効果が生まれている。
最後の「面」を担うのは、電動の自転車やトゥクトゥクだ。モビリティを毛細血管のように沿線一体に張り巡らせることで、観光客自ら集落を探検し、隠れた魅力を発見できる。
ガイドや芸術家など、地元の人々がもち寄る知恵で提供サービスも増え、同プロジェクトをハブに地域事業者間の連携も進む。今後、同様のモデルを40年までに30沿線に展開する目標を掲げる。
会田は「どの国にも鉄道はあり、過疎高齢化は先進国共通の問題。チャンスがあれば海外も狙いたい」と展望を語る。一方の嶋田は「高齢化先進国として、新興国に先行事例を示していくことも日本の責任だ」と考えを述べた。
鉄道とその沿線住民が一体となった新しい観光と街づくりのかたちは、人々がつながり支え合うソーシャルムーブメントとして、世界でイニシアティブを取る道筋が見えてきた。
会田均◎東日本旅客鉄道 八王子支社 地域共創部 地域連携ユニット (地域活性化)マネージャー兼沿線まるごと取締役。
嶋田俊平◎さとゆめ代表取締役CEO 兼沿線まるごと代表取締役。大学院修了後、環境系シンクタンク勤務を経て13年さとゆめ設立。