日経平均の1日の下落幅が歴代一位となった8月5日の日本株市場。その翌営業日には過去最大の上昇となるなど、記録的な変動が続いている。
この急激な乱高下の要因とは? そして、今後の市場動向を市場関係者はどう見るのか。
ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー、大槻 奈那氏に伺った。
株式市場の急激な変動の背景
8月初旬の日本市場の急落。非合理的なパニック売りが生じた背景としては、米国の景気後退懸念、日銀の継続利上げの可能性、これを受けた円高等、下落の原因が一つに特定できない中で急激に株価が動いたため、市場が大きな不安に駆られたと考えられている。過去の市場ショックでも、同様に、複合的な要因で下落幅が大きくなった例がいくつかみられる。
例えばブラックマンデーでは、日本マネーのNTT新株発行に備えた資金の本国還流、米金利の上昇、イランによる米タンカー攻撃、先物のパニック売り、「ポートフォリオインシュランス」と呼ばれるプログラム売買等が要因として挙げられている。
ただ、8月6日と7日に行われた財務省、金融庁、日本銀行の三者会合で示された「株価や為替相場が不安定な状況で利上げは行わない」という方針は、市場に一時的な安定をもたらし、これで少なくともひとつの懸念材料は払拭されたといえる。
当面の再利上げは困難
今回の乱高下で示された最大の教訓は、異例の金融緩和の巻き戻しはやはり容易ではない、ということ。欧米の利下げと日本の利上げが同時並行するのは極めて稀で、過去には、1980年代末を除いて殆ど例がない。80年代末については、結果として日本のバブル崩壊の底が深くなってしまったことから、タイミングには疑問を残す。更なる引き締めを示唆した日銀に対し、市場が示した反応の意味するところは大きく、今後の利上げは極めて慎重に行わざるを得なくなったと思われる。
今後の市場見通し
市場はこの先どう動くのか。過去の代表的な市場ショックでは、その後の回復速度に大きな違いがみられる。違いを生んだのは、影響の波及度合いと経済のファンダメンタルズの強さだ。
実体経済が弱かったことから、市場の回復が遅かった典型例は、1929年の世界恐慌である。また、リーマンショックは、金融機関への支援を表明して早期の持ち直しが見えたかと思ったら、欧州に飛び火して影響が長引いた。
一方、今回の暴落の先例として多く引き合いに出されたブラックマンデーは、その後の回復度合いではむしろ好事例となっている。これは実体経済が相応に強く、株価の割高感がなかったため等とされる。
現在の日本の実体経済は堅調である。実質賃金の上昇や、株価が(下落したとはいえ)昨年比で上昇していることによる資産効果等も下支えしよう。
問題は、米国の景気動向である。また、一度恐怖を味わった投資家マインドは、ダウンサイドに敏感になることから、過去の市場ショックでも二番底をつけるケースが多かった。
当面は、注目点を国内金融政策から米国経済に移し、やや保守的なポートフォリオ構成で臨みたい。