日記を書くという行為は、「日々の出来事を記録する、穏やかな行為ではない」とサスキンド博士は言う。同氏は、日記や「エクスプレッシブ・ライティング(ネガティブな感情を書き出し、思考を整理することで不安を解消する方法)」について、「意味づけのための変革的なツール」と表現する。とりわけ、危機の時代にはそれがあてはまるという。
社会心理学者のジェームズ・ペネベーカーは、テキサス大学で実施した初期の実験のなかで、ストレスの多い出来事や、トラウマ的な出来事を書き記すことを通じて「悲劇的なギャップに入る(現実と、こうであってほしい姿のあいだにあるギャップを認識し、その緊張を受け入れること)」と、より健全な精神状態を導き、健康に良い影響をもたらす助けになるとする説を提唱した。
その後の研究でも、この説が証明されている。書くという行為は、その出来事を整理するのに役立つのだ。たとえ、1回分の日記に費やす時間が2~15分であっても。
とはいえ、疑問は残る。何について書けばいいのだろうか?
日記を通じて自己認識を得る
ケイラ・シャヒーンは、100万部以上が売れたTikTok発のベストセラー『The Shadow Work Journal(シャドーワーク・ジャーナル)』の著者だ。この本では、何を書いたらいいのだろう、と天井をぼんやり見つめずにすむようにするための基本的枠組みとナラティブが提示されている。「日記は本来、規範的なものではありませんが、日々のルーチンに追加すると、意図を設定し、感情を解き放つための素晴らしい手段になります」とシャヒーンはメールで説明した。
「日記をつけ始めたいのなら、毎日5~15分ほどをあてるようにしてみてください。日記を書くようにと促し、さりげなく思い出させてくれる手段がほしければ、『Zenfulnote』というアプリをダウンロードしてもいいでしょう。日記をサポートしてくれる幅広いツールが備わっています」
起業家のアンナ・ブエンディアは、テキサス大学でコミュニケーションを専攻する学生でもある。長年、手書きで日記をつけているブエンディアは、こう話す。「いまの自分自身と、自分の過去の思考とをつなげることには、驚くほどの力があります。特に、自分が危機にいると感じているときや、思考がぐるぐる駆けめぐってしてしまうのを止められないときには有効です。プレッシャーを感じているな、と思うときには、日記をつけると、思考が、文字を書くスピードまで減速するのです」
メンタルヘルスのための日記
シャヒーンによれば、日記の力は、変化や危機への対応にとどまらないという。「日記は、喜びをキャッチするための聖域であり、創造的な表現をするためのキャンバスであり、個人的な成長のための道でもあります。書きとめられた言葉は、解放と創造の強力な手段になるのです」日記に興味がある人のために、シャヒーンは、そのきっかけとして2つのことを提案している。
1)世界を良い方向に変えている人について書く。その人の取り組みを、あなたはどう支えられるだろうか? あるいは、あなたのコミュニティで同じような活動を起こすために、どんな刺激を受けただろうか?
2)自分にとって安全な場所について書く。現実の場所でもいいし、想像上の場所でもいい。あなたが心からくつろげる場所について、細かなところまで描写する。そして、ストレスを感じているときに、どうすれば心のなかでその場所を訪問できるかを説明する。
ABC NEWSの健康・医療分野の編集長を務めていた人物で、現在は、健康・ウェルネス企業のAjenda(アジェンダ)創業者兼最高経営責任者(CEO)であるジェニファー・アシュトン博士は、メンタルヘルスにとって日記は重要だと語る。「日記は多くの人の助けになっていますが、その理由は明らかです。この方法は、利用しやすく、ほとんどお金がかからないからです。秘密が守られますし、他の人からあれこれ決めつけられたり批判されたりしません」