「どこか曖昧だったりブレていたり、滲んでいたり。私が詩に惹かれるのは、そうやって残像のように伝えることができるから。だからこそ、読み手一人ひとりの解釈が広がっていく。詩は読む人の解釈と溶け合うことができる言葉のかたちだと思います」
その詩作のプロセスは、どこかで出合った、気になる言葉やモチーフを書き留めていくことから始まる。初めはバラバラで繋がりのない言葉同士が、詩を書き始めると結びついていく瞬間があるのだという。そこからさらに言葉が紡がれ、作品として膨らんでいく。
また、水沢は絵を制作していた経験があるためか、何かの一場面がイメージとして頭に浮かび、言葉に書き起こしていくこともあるという。輪郭のとらえがたい言葉の連なりに混じり、詩の中に時折、「ローソン」や「クリネックス」、「沼津」といった固有名詞が効果的に使われる。
「絵画の感覚に近いのかもしれません。画面全体は抽象的に描かれていながら、一部分だけすごく精緻に描き込まれている絵は、ぼやけている部分も精細な部分もどちらも際立っていると感じます。詩を書くときも、そういった感覚に近いような気がする」という彼女の言葉に頷ける。
詩の面白さを広めたい
これまでに、詩集2冊と小説を上梓した彼女。自身の好きなイラストレーターにカバー絵を依頼するなど、本づくりにもこだわりを持ち、朗読会などのイベントも積極的に参加してきた。そこには、より多くの人に詩の魅力に出合ってもらいたいという願いにある。「詩には、わからないということを肯定してくれる言葉があると思います。“わからないけれどなんだか好き”みたいな感覚も受け入れてくれる。今、SNSなどを見ることが多いと思いますが、何かを好きと発言する時に、全てを見て理解していないと好きと言ってはいけない風潮があると思うんですよね。でも、詩を読む時は、そういう気負いを持たなくていい。受け入れてくれる大らかさがあるんです。だから、“なんか好き”という部分を少しでも見つけてもらえたら嬉しいですね。それに、詩は短い作品が多いので、ちょっと1つ読んでみようかなと気楽に読んでもらえたらいいなと」
最後に、今後挑戦してみたいことを尋ねると、「短歌や俳句、川柳」だという。「音の数が少ない定型詩には、宇宙のような無限の広がりをどこまでも突き詰めていけるような感覚を持っているんです。その世界にまだ踏み込めていないので、いつかは作れるようになりたいです」と語った。実現は、きっとそう遠いことではないだろう。
みずさわ・なお◎1995年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。2016年、第54回現代詩手帖賞受賞。20年に第1詩集『美しいからだよ』(思潮社)で中原中也賞受賞。第2詩集に『シー』(思潮社)、小説集に『うみみたい』(河出書房新社)。
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