『ゴジラ-1.0』の水のエフェクトで、アカデミー賞視覚効果部門を受賞した野島。資金や人材の豊富なハリウッドに肩を並べるべく、日本のVFX界を盛り上げている。
2024年3月、日本映画として初めてアカデミー賞視覚効果部門を受賞した『ゴジラ-1.0』。作中には、主人公敷島が、戦争の記憶にさいなまれて現実との区別がつかなくなるシーンがある。VFXアーティストとして海のシミュレーションを担当した野島達司は、受賞時の感想をこのシーンになぞらえた。
「敷島のハッピー版。ずっと現実感がなくて、受賞時も自分はその場にいなくてテレビを見ている感覚でした」
受賞時の野島(写真右)/ Getty Images
授賞式の約1カ月前のノミニーズランチョン(候補者が参加する昼食会)では、スティーヴン・スピルバーグ監督に「水とカメラの距離がいい」と直接褒められた。「その時点で気絶(笑)。そこから1カ月強は夢のなかでした」
スピルバーグも注目した水のエフェクトは、野島が得意とする表現のひとつである。ただ、自己採点は厳しい。
「今回の受賞は、映画自体が面白かったこと、低予算でよく表現したことが評価された結果でしょう。技術だけを見れば、胸を張って『自分たちが世界最強だ』とは言えない」
まだハリウッドの背中を追いかける側にいるという意識が強い野島は、授賞式や昼食会で世界のトップアーティストたちと交流して刺激を受けることを楽しみにしていた。しかし、来ていたのは監督やVFXチームのマネジャークラス。何か吸収しようと耳を傾けたが、「人生を12話の物語で表すと僕はまだ5話あたり。皆60話の話をしていて、自分には直結しなかった」。
映像作家としての野島の物語は、親のおさがりのカメラで写真を撮った4歳から始まる。小学5年生で編集ソフトを触り始め、中学1年生で実写の「手」からCGの稲妻が走る映像を制作した。高校生中心の映像集団KIKIFILMに出入りしていた縁で高校3年生のときに映画『スレイブメン』(17年)のVFXを担当。「合成で食っていけるかも」と自信をつけてデジタル技術系の大学に進学し、趣味でVFXをSNSにあげるうち、白組から誘いを受けた。
プロとして歩み始めた野島だが、アーティストとして力を磨くことに役立ったのはむしろオフタイムだった。野島は白組入社前から波や飛沫などの表現を個人でつくり続けていた。ただ、水のシミュレーションには高スペックのPCが必要。給料をつぎ込んで256ギガのPCを買い、複雑な水の動きを再現した。