サイエンス

2024.07.02 14:00

美術史を塗り替える大発見、約13万年前に作られた「エイの彫刻」

砂彫刻とされる物体の(a)上面と(b)下面(HELM ET AL., ROCK ART RESEARCH 2024)

考古学上の注目すべき発見の1つとして、ある研究チームが「人間の創造性を表している」と主張する、あるものを発掘した。それは古代のアカエイを描いた砂の彫刻だ。

当初は単なる対称的な岩石層とみなされていたその発掘物は、南アフリカの南海岸沿いに位置するスティル湾の近くで2018年に発見された。ネルソン・マンデラ大学および南アフリカ水生生物多様性研究所の専門家チームは、光ルミネッセンス(OSL)年代測定法を用い、その発掘物を徹底的に調べた。そして、この一見控え目な岩石に関する彼らの最新論文は、人間の芸術的表現に関する既存の時間軸に異議を唱えることとなる。

研究チームは、この岩石が「アンモグリフ」である可能性を示唆している。アンモグリフとは、砂の上に残された線や絵などの痕跡が石化したものだ。 左右対称であること、および表面に溝があることは、海岸で見つかった新鮮なアカエイの周囲を誰かがなぞったものであることを示しており、この説の信憑性を高めているという。しかし、どうして古代人が時間と努力を注いでそんなものを作ったのだろうか? その理由として、アカエイが食料あるいは海岸の水に潜む危険を表す象徴であり、それを記すことは実用的な重要性があったことなどが考えられる。あるいは、そのような砂彫刻を作ることは、人間と自然界との遭遇を題材にした何らかの物語を伝える方法だったのかもしれない。

この発見は、具象絵画(訳注:具体的な対象物を、極端な捨象なしに具体的に描いた絵画)の起源に関する興味深い疑問を投げかけた。研究チームはこの発掘物が中石器時代のもので、年代測定の結果約13万年前と特定した。それは、これまでに発見された具象絵画の事例より数万年以上前なのだ。

それまでに具象絵画として認められた事例は、インドネシアの洞窟に書かれたブタの壁画で、年代は4万5000年前だ。しかしこのアカエイの砂の彫刻は、私たちの祖先が、これまで考えられていたよりはるか以前から、芸術的表現に携わっていたことを示唆している。このような砂の彫刻を創ることが、数千年後の精巧な洞窟壁画への道を開いたのだろうか?おそらく、それらの初期の芸術的試みは、抽象的な物事を何らかのシンボルを使って表現する芸術的な手法と、現代における写実的描写の橋渡しを担ったのだろうとチームは推測している。

考古学や人類学の発見について関心を頂く多くの科学愛好者にとって、この発見は祖先の心をのぞき込む興味深い機会をもたらすものだ。このことは、創造し、表現し、意思を伝達することに対する人間の衝動が、時間と場所を超越することを思い起こさせる。この発見から得られる結論はまだ暫定的だが、この彫刻は人間の創造性の起源と軌跡を再評価することを強いている。かつてありふれた岩石と見なされたものが、今や古代の祖先の創造と想像を示す証しになろうとしている。そして、発掘された芸術品や考古学的発見のすべてがそうであるように、今回の発見も、私たちが誰であり、どこから来たのかという問いに関する理解を深めるものだ。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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