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2024.06.29 11:00

能登半島地震でシャワーを提供。目指すのは「水問題」の解決

ただ、今回の対応でも手応えと同時に課題が残った。前田は「1カ月足らずで能登半島全域をカバーすることができたのは大きな成果です。しかも被災者やパートナーの方々、全国の自治体と一緒に成し遂げられたので感慨深い。ただ、被災地のニーズ把握や自治体との合意形成などをスムーズに行えるよう事前に仕組み化できていれば、1〜2週間ですべての避難所に提供できたはずです」と悔しがる。そこで、次なる巨大災害に備えて、災害時に全国から被災地へと「WOSH」や「WOTA BOX」を集める仕組みを事前に整えようと、さまざまなステークホルダーとともに動き出している。

いち早く水問題を解決するために

前田によると、災害事業に一定のめどが立った現在の事業フェーズは、第3創業フェーズの「WOTA 3.0」。「WOTAの提供するサービスが、上下水道の補完から代替へと移った」(前田)というこのフェーズでは、日常的な給水を実現する住宅向けの小規模分散型水循環システムの量産開発にも挑戦している。
 
次の「WOTA 4.0」への移行は26年に見据える。「このフェーズでは、Google社のAndroidのスマートフォンがさまざまなメーカーで生産されているように、当社のWOSHやWOTA BOXのようなプロダクトも世界中の誰もが生産できるようにしたいんです」。そのうえで、ニーズのある特定の地域に大量の資本を投下してデファクトスタンダードをつくり、その場所で需要と供給を一緒につくることをもくろんでいる。

「我々が取り組んでいるような物理的な問題解決の方法は、建設・製造(業)・DIYの3つしかないんです。ハードウェアの設計から生産までのプロセスは、22世紀には個人がAIをつかってDIYできる状態になると思いますが、21世紀の特に前半においては、製造業止まりです。しかし、各メーカーが独自にゼロからの研究開発や設計をしていては時間がかかってしまいます。つまり、現時点でいち早く水問題を解決するためには、全世界のメーカーに対するオープンソース化が必要なのです」。ただ前田が真に理想とするのは「D2P(Direct to Problem)」である。これは、人が自然や環境と直接コミュニケーションできる状態だ。
 
前田は、水(Water)、エネルギー(Energy)、食料(Food)、空気(Air)、素材(Materials)の「WEFAM」の小規模分散化による問題解決を人生前半の目標とし、そのなかでもまず優先すべき課題として水問題に取り組んできた。「WOTA4.0までいけば、あとはドミノ倒し的に問題解決が加速していくと思います」と話し、水問題から自分の手が離れたら、他の課題の解決に向けてまたゼロからスタートするつもりだ。


まえだ・ようすけ◎1992年、徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻(修士課程)修了。小学生のころから生物学研究を開始し、中学生で水問題に関心を持ったことをきっかけに、高校時代に水処理の研究を実施。2017年にWOTAにジョインし、20年にCEOに就任した。

文=田中友梨 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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