問題はこの内外価格差の縮小がどのように行われるかだ。為替での調整が限定的ならば、国内価格の上昇による価格差の縮小というルートがメインにならざるを得ない。しかしそれは画一的ではなくインバウンドに近いところから進む。すでに高級ホテルやレストラン、高級マンションなどでその傾向は明白で、地域も観光地や大都市から価格が高騰しつつある。
物の価格が上がれば賃金もインフレ率も上がってくる。しかし賃金上昇は値上げからタイムラグがあり、その間、日本人の多くは物価高に苦しみ、訪日外国人は長期にわたって安い物価を享受することとなる。そして日本人の所得格差はさらに拡大する。インフレ率の上昇は財政圧迫につながる。国債の回収期間は7年程度なので、仮にインフレ率が5%以上になってもすぐに財政圧迫とはならないが、7年から10年にわたりブローパンチのように効いてくる。
このように考えると、これまでの10年がデフレ脱却の糸口を探す時間だったのに対し、これからの10年は、日本が世界のなかで正当に評価されるためのデフレ脱却との戦いとなる。言い換えれば、ガラパゴスな日本からの脱却をいかにソフトランディングさせるかが重要となる。
世界標準への返り咲きへ
そのうえで、新規産業育成は経済成長への重要な政策だ。現在、日本のスタートアップは国内だけを主戦場にしているためスケールアップに限界がある。世界での勝ちパターンを、早急につくり出すことが必要である。グーグルの検索エンジンやフェイスブックは日本でも同様のサービスが先駆けて開発されていたにもかかわらず、世界での勝ちパターンを持ち得ていないがために競争に参加すらできなかった。策は2つある。第一に、Forbes JAPAN創刊号のテーマであるスタートアップと大企業の融合。独自技術をもつスタートアップが大企業のネットワークを使ってビジネスを伸ばし高い評価額での上場を目指す、今でいう「スイングバイIPO」だ。
もうひとつは、アイデアや技術に長けた日本人起業家と、世界ビジネス展開に長けた海外起業家とのカップリング戦略である。ソニーやホンダのように技術者とビジネスマンのコンビで世界を席巻した例は多い。しかし、依然として日本には技術やアイデアは多くあるのに、それを世界ビジネスに発展させる力が相対的に弱くなっている。例えば、シリコンバレーで成功したブルーボトルコーヒーは、元々CEOが日本の清澄白河にある古い喫茶店に入ったときに丁寧にドリップされたコーヒーを飲んで思いついたビジネスモデルで、日本の技術や伝統を現地で事業化したとも言える。次の10年は日本の世界標準への返り咲きへの10年となるのではないか。
Forbes JAPANは引き続き新たな課題に取り組む企業とそれを率いるCEOのストーリーを丁寧に伝えていきたい。同時に、将来輝くであろう人材や企業をいち早く発掘し、その世界への挑戦を少しでも応援できれば幸いである。