岐阜大学と新潟大学の研究チームは、マタタビがハチを欺く手口を解明した。マタタビは雌雄異株の植物。雄の株と雌の株があり、雄には雄花、雌には雌花だけが咲く。雄花のおしべの花粉が雌花のめしべにつくと受精するのだが、マタタビは雌花にもおしべがあり花粉をつける。しかし雌花の花粉には発芽能力がなく、受粉しても受精しない。つまり、ハチをおびき寄せるためだめの、偽の花粉ということだ。
そこまでは以前からわかっていた。研究チームが解明したのは、わざわざ偽の花粉を作るための「コスト」だ。そこまでするマタタビは、どこでどれだけ「得」をしているのか。調べてみると、植物とハチの幼虫の双方の成長に欠かせない養分に窒素成分があるが、偽の花粉にはそれが本物の花粉の4分の1しか入っておらず、花ひとつに含まれる花粉の平均窒素量は雄花のわずか6パーセントだった。発芽に必要な発芽孔がなく花粉としての役割は果たせず、細胞質もほとんどなく、見た目は変わらないものの中がスカスカであることが明らかになった。
ハチは雌花の花粉を喜んで巣に持ち帰るわけだが、気の毒に、じつは栄養素がほとんどないインチキ商品を掴まされていたことになる。ハチが受け取る窒素量などの報酬は定量的評価が難しく、これまであまり研究されてこなかった。今後、「このような形質の定量的な分析を行うことで、植物と送粉者と利害関係の多様性の理解が一層深まることが期待されます」と研究チームは話す。もっと多くの植物と虫たちとの取引の「闇」が、明るみに出るかもしれない。
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