バイオ

2024.06.11 16:45

「蚊」専用の仮想現実で弱点を発見

プレスリリースより

どうしたら蚊を避けることができるか。蚊は何を嫌がって回避行動をとるのか。蚊の習性にはこれまでも数多くの研究報告があるが、実際にそれらを確かめるために、花王と理研が蚊専用の仮想現実システムを開発し、実験を行った。

花王ヒューマンヘルスケア研究所と理化学研究所脳神経科学研究センター知覚神経回路機構研究チームは、蚊の感覚刺激に対する行動を詳しく調べるために、LEDパネル、匂いが出るチューブ、羽音をとらえるマイクを備えた仮想現実空間装置を作り上げた。

中央の台に蚊をセットし、2つのマイクで蚊の左右の羽根の音を拾う。蚊が飛びたい方向は羽音の違いから分析できるのだ。チューブから出される匂いや二酸化炭素、それにLEDパネルの映像を組み合わせてさまざまな感覚刺激を与えたときの蚊の「飛び方」を見ることで、それらの刺激をどう受容しているかを推測する。感覚刺激は0.005秒ごとに変えることができるので、ごく小さな行動変化も観察できる。

実験では、LEDパネルに黒い棒を表示して動かすと、蚊は棒が目の前に来るように、つまり棒を追いかけるように飛ぶことがわかった。ところが、足にシリコンオイルを付着させると、うまく追跡できなくなった。シリコンオイルが蚊の追跡能力を低下させたということだ。

じつは花王では、すでにシリコンオイルが蚊に与える影響について研究を行っていて、低粘度のシリコンオイルを人の肌に塗っておくと蚊は肌にとまらずに逃げることを突き止め、その習性を利用した蚊除け製品も開発している。シリコンオイルが足についた蚊は、その後、足を拭う仕草を見せる。蚊の足は水を弾くようになっているが、低粘度のシリコンオイルは蚊の足に素早く濡れ広がってしまう。そのため蚊はシリコンオイルに取り込まれそうになり、ビックリして飛び去るというわけだ。今回の実験では、シリコンオイルが蚊の能力低下を招くことも判明した。

また蚊には、怖い体験を匂いに関連付けて記憶する「連合学習」の性質がある。蚊を手で叩こうとして逃がしてしまったとき、蚊はその人を嫌って近づかなくなるというのだ。それは、その人の匂いを記憶するためだ。研究チームは、蚊の足にシリコンオイルと、蚊にとって無害なグリセロールを付着させて実験を行った。その際、双方にシトロネラの匂いをつけた。

そうしておいて装置で蚊を「飛行」させ、チューブからシトロネラの匂いを出すと、シリコンオイルを足に付着させた蚊は匂いが出る方向を避けて飛ぶ時間が多くなった。一方、グリセロールの場合はそうした行動の変化は見られなかった。つまり、蚊はシリコンオイルの不快感を連合学習して、匂いを避けるようになったということだ。

この蚊のための仮想現実装置によって、蚊の行動を詳しく知ることができた。単純に見える蚊にも学習能力があり、さらに人間と同じく仮想現実にころっと騙されてしまうことも驚きだが、なにより、ここから画期的な蚊除け製品が一日も早く生まれることを期待したい。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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