スタートアップ

2024.06.03 11:15

岩手から発信する医療ベンチャー集団がファンドを組成して第2ステージへ

財務的リターンだけではない投資

さて、この日、筆者が注目した発表は大きく2つあった。1つ目は4億2500万円のファンド「Tohokuライフサイエンス・インパクトファンド」の形成だ。このファンドは名前の通りインパクト投資に特徴がある。インパクト投資とは、財務的なリターンだけでなく、社会や環境へのポジティブな影響を追求しておこなわれる投資を指す。

では、今回のこのファンドの社会貢献とはどのようなものになるのだろうか。医療機器事業に投資するので、その事業の成功は全人類の健康に資するという説明も可能だ。しかし、本音としてはやはり東北の復興だろう。岩手銀行、東北銀行、北日本銀行、株式会社カガヤ(盛岡市の鋼構造物の設計等を手がける企業)などがファンドの出資者に名を連ねていることからもこれは明らかだ。

当日はこのファンドの出資対象となる事業も紹介された(カンファレンスの席上ではそのように名言されなかったが、後の取材でかなり強い候補であることがわかった)。

そのなかで個人的に興味を引かれたのは、東北医工(大関一陽社長)の「医療機器としての脳卒中リハビリロボット」だ。脳卒中で手指が麻痺して動かなくなった人に、ミラー療法という技術で自主訓練によって回復を目指す医療機器である。

ミラー療法は、錯覚を利用して脳に刺激を与え、その刺激によって脳が本来のネットワークを回復することを狙った治療法で、筆者は経済人類学の栗本慎一郎氏の闘病の著作を読んでこの療法には前から興味を持っていた。

IDEAL(田辺正章社長)が開発した、便失禁患者(約500万人いるという)の症状を改善するディバイスも興味深かった。こちらも自主トレーニングをサポートする機器で、服を着たまま装置に座り、筋肉を収縮させることで骨盤底筋を鍛えるのだそうだ。そしてなによりも安さが魅力だ。これはヒットするかもしれない。

商品化するまでには少し時間がかかるだろうが、その発想に驚嘆させられたのは、京都大学発のベンチャー、フィジオスバイオテック(片野圭二社長)の生体模倣システムの研究開発だ。昨今は動物保護の観点から動物実験に対して大変に厳しい目が向けられている。特にヨーロッパとアメリカでは、現実的に動物実験ができなくなりつつある。

このような状況を踏まえ、工学と医学を合体させ、生命体を模倣したシステムを構築し、動物を犠牲にすることなしに、医薬品などの実験を可能にするのが、生体模倣システム、略してMPS(Microphysiological systems)だ。

まずは動物実験と遜色ない精度まで高めることが重要だと思われるが、MPSでは人の細胞を使用するので、ひょっとしたら動物実験以上(動物実験もいわゆるシミュレーションであるから)の精度を実現できるのではないかと思い、この会社の取締役でもある京都大学の横川隆司教授に訊いてみたところ、「それを目指しています」とのことだった。
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文=榎本憲男 写真提供=小笠原勇司

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