最近発表された2つの調査と、その他の調査の数字を比べてみると、そうした混乱ぶりが浮かび上がってくる。
米金融サービス大手ノースウェスタン・ミューチュアルによる調査「Planning & Progress Study 2024」によると、米国の現役世代は、老後資金として平均146万ドル(約2億2900万円)が必要だと答えている。これは1年前の回答より15%高く、2020年比で50%増加している。
この増加率は、同期間の年間インフレ率である約5%を大幅に上回っている。
一方、米シンクタンクの企業福祉研究所(EBRI)による調査「2024 Retirement Confidence Survey」では、現役世代の約49%が100万ドル(約1億5700万円)以上必要だと答えた。また、回答者の21%が200万ドル(約3億1400万円)以上必要と述べている。
ノースウェスタン・ミューチュアルの調査によれば、現役世代の平均的な老後の蓄えは10万ドル(約1500万円)を下回っており、これらの調査結果は重大な危機の到来を示唆している。
しかし、もう少し視野を広げてみると、違った景色が見えてくる。
先ほどのEBRIの調査では、すでに退職したリタイア世代のうち33%が、支出を支えるために必要なのは50万ドル(約7800万円)以下だと答えている。100万〜200万ドルが必要との答えは41%にとどまった。また、200万ドル以上必要と答えた人はわずか12%であった。
米連邦準備理事会(FRB)の「家計経済と意思決定に関する調査」でも、前述した2つの調査よりも少ない金額の回答が見て取れる。退職後に「まあまあ快適に暮らしている」あるいは「快適に暮らしている」と答えたリタイア世代の多くの貯蓄額は、25万ドル(約3900万円)以下だった。
現役世代とリタイア世代の認識に食い違いがあるのは、ほとんどの現役世代が、今自分が使っている金額や、退職後の生活にかかる金額を把握していないことが原因の1つだろう。
また、リタイア世代の多くは年齢を重ねるにつれて(インフレ調整後の)支出を減らしていくというデータがあるが、それを知る現役世代はほとんどいない。しかし、多くのファイナンシャル・プランでは、支出は毎年インフレ率に応じて着実に増加すると想定している。
もう一つ考えられる原因は、現役世代が退職後に受け取る社会保障の金額を過小評価しており、受け取れる金額がとても少ないか、まったくないと仮定していることだ。
近年の学生ローン返済額や住宅費の高騰、粘り強いインフレなどにより、恐らく多くの人が退職後の支出を過大に見積もっているのだろう。
退職後の生活設計の第一歩として重要なのは、リタイア後のライフスタイルについて考え、(未来ではなく)現時点でその生活を維持するのにかかる費用を慎重に見積もることである。貯蓄計画が当てずっぽうの金額に左右されてはいけない。
前述したリタイア世代を対象とした調査は、着実に貯蓄をし、合理的に投資をし、将来の支出を適切に算出しさえすれば、大多数の米国人は退職後も安泰であることを示している。
(forbes.com原文)