ところが、米政府系メディア「ラジオ・フリー・アジア」は5月23日、北朝鮮当局がキム・ヨンジャさんの歌を聴いたり歌ったりしないよう指示する命令を出したと報じた。北朝鮮は最近、韓国との平和統一路線を放棄し、韓国を敵視する政策を取っている。李さんは「歌手を名指しで禁じるなんて度を越しています。それだけ、キム・ヨンジャさんの歌には影響力があるということでしょう」と話す。
一方、キム・ヨンジャさんを敵視する北朝鮮が力を入れている曲が、「親しいオボイ(アボジ=父、とオモニ=母をかけた言葉)」だ。北朝鮮の朝鮮中央テレビが4月、新たな歌謡曲としてその映像を公開した。歌詞はこんな感じだ。
「歌おう金正恩 我々の領導者 誇ろう金正恩 親しいオボイ 母親の懐のように温かい 父親の懐のように慈悲深い ひざ元の千万の子どもたちを懐に抱き 情を込めて見守っておられる」
映像では、「最高指導者お抱えのアナウンサー」として名高いリ・チュンヒさんを始め、老若男女、工場の労働者から学生、兵士などが熱狂的に歌いまくる。なかには、歩きながらスマホで聴いている若い女性の姿も出てくる。まさに、北朝鮮指導部の願いを込めたような場面の連続だ。SNSなどで拡散している模様で「北朝鮮にしては斬新な映像」が受けたと思われる。
だが、果たして、イムジン河の歌詞と比べた場合、こんな歌を誰が口ずさみたいと考えるだろうか。金正恩総書記が最高指導者になって10年以上も経つのに、一部の側近たちはともかく、一般市民の暮らしは全くよくならない。高層ビルをバンバン作っても、一番人気があるのは5階前後というのが現状だ。電気が来ず、エレベーターが自由に使えないからだ。
映画も歌も、わが身に重ね合わせて共感してこそ、長く広く伝えられるというものだろう。好きな歌も歌えず、最高指導者をたたえる歌だけを歌えと言われ、北朝鮮の人々がどう思うか、想像に難くない。
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