その他

2024.05.21 09:15

能登地震の再建にも。短工期、低コストで家が建つNESTINGの実力

一方、家は資産という側面も持つ。ライフステージが変われば、売るという選択肢もあり得るだろう。そのような際、NESTINGで建てた家は、資産性を保てるのか。これに関して秋吉は、角度の違う見方をしている。

「例えばコミュニティ イグジットのような考え方があります。NESTINGのように家をみんなで作って育てていけば、その過程でコミュニティが育まれ、その関係性自体が資産になる。こういった関係資本が形成できれば、不動産市場の評価軸とは異なる評価軸で、家を売り買いできるかもしれない。

おそらくNESTINGを利用するような方々は、同じような感覚やカルチャーを持っている人たちなので、お互いにつながりやすい。実際に那須でうちのメンバーが、自分の家の近くにNESTINGでもう一つ家を建てて、移住希望者が気軽に泊まったり、先輩移住者と交流できるような拠点を作っています。

さらにNESTINGはコンクリート基礎工事の必要がないので、普通は建材が搬入できないような崖や丘の上にも建てることができる。それにより、他では絶対に得られないような眺望という独自の価値が生まれます」
素人が1ヶ月で建てたとは思えない上質な室内。

素人が1カ月で建てたとは思えない上質な室内。

「建築の民主化」に向けて

家を建てるということが、良くも悪くも一大事となってしまった現代。人々はガチガチに作り込まれた同じようなデザインの住宅に住み、自分で手直したり、自分で拡張したり、縮小するような機会はない。当然、そうした技術も身体性も持ち合わせておらず、天災など想定外のことが起これば、ただただ壊れた建物の前で立ち尽くすだけだ。

「例えば江戸時代は壊れたら直せばいいという感覚で、木材をうまく使って橋や建物を作っていました。今は、35年ローンで一生をかけた最大の買い物として、とても重苦しいものになっている。家を建てることがもっと軽やかになれば、人生の自由度が上がりますし、自分でなんとかすればいいという心理的安全性も生まれます。それこそ“生きる“実感を今以上に感じることができるでしょう」

現在、秋吉らはAIを活用して家をデザインできるシステムを開発している。AIに相談しながら、素人でも精度の高いデザインや素材選びを、簡単に行うことができるようになる。さらにそのシステムを他の業者にも提供し、世界へその輪を広げていく構想をしている。

そうなれば、能登だけではなく世界中の災害地での活用はもちろん、各国の文化に寄り添った形で自由度の高い住宅の在り方が生まれるであろう。秋吉らが掲げる「建築の民主化」は思ったより早く、世界の人々に身近なものになりそうだ。
NESTINGのアプリの画面。外観や間取りから概算見積もりまで、簡単に組むことができる。

NESTINGのアプリの画面。外観や間取りから概算見積もりまで、簡単に組むことができる。



秋吉浩気◎1988年生まれ。芝浦工業大学工学部建築学科卒業後、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクス・デザイン領域でデジタルファブリケーションを専攻。2017年にVUILDを創業。著書『メタアーキテクト』他。

文=國府田淳 写真=楠瀬友将

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事