米国務省で軍縮問題を担当するポール・ディーン首席次官補はオンライン記者会見で、米国は核兵器配備の決定は「人間によってのみなされる」べきだという信念に基づいていると発言。同国は「核兵器使用に関する決定をAIに委ねることは決してない」と明言した。
同担当官は、英国とフランスも核兵器をAIではなく人間の管理下に置くことを誓っているとした上で、ロシアと中国も同様の方針を取るべきだと呼び掛けた。さらに、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国の間で、武器の管理に向けた結束が示されたことを歓迎すると表明した。
世界中の企業が強力なシステムの開発や配備を競い合う中、各国政府はAIの規制に取り組んでいる。AIの軍拡競争を受け、IT業界や学界、市民社会からは、かつてないほど高度なAIシステムを開発し配備する前に立ち止まって考えるべきだと注意を促す声もある。各界は、AIはすでに人権や福祉に脅威をもたらしており、人類の存亡が危機にさらされる恐れもあると警告している。
国際的にAIに関する規制を調整しようとする動きはあるものの、AIの軍事利用については、これまでほとんど議論されてこなかった。だが最近、オーストリアの首都ウィーンで開催された会議では、自律型兵器は軍縮に向けた従来の動きに背くものであり、世界初の原子爆弾を発明した物理学者にちなんだ「オッペンハイマーの瞬間」にAIが急速に近づいていると警告する声が上がった。
AIの軍事利用が国際舞台で懸念されるようになった一方で、核兵器は長年にわたって国際関係に大きな影を落としており、近年は特に緊張が高まっている。ロシア政府はウクライナや敵国に対し、核兵器で先制攻撃する可能性があると繰り返し脅している。中国も近年、核兵器備蓄を増強しているが、政府は「先制攻撃禁止」政策を順守しており、他の核保有国にも積極的に同政策の採用を促していると説明している。
米国務省は同日、ロシアがウクライナ軍に対し、農薬のクロルピクリンを使用したとして公式に非難した。クロルピクリンは第一次世界大戦中に化学兵器として広く使用されたが、現在では軍事への転用は認められていない。米疾病対策センター(CDC)によると、クロルピクリンは肺や皮膚、目を刺激し、嘔吐や下痢を引き起こすこともある刺激性の物質だ。米国務省は、ロシアがウクライナで「暴動鎮圧剤を戦争の方法として」使用したとするこれまでの評価に加え、化学兵器禁止条約にも違反していると非難した。これについて米政府は、「恐らくウクライナ軍を要塞化された陣地から追い出し、戦術的な利益を得たいというロシア軍の願望によるものだろう」との見解を示した。ここ数年、化学兵器禁止条約を無視していると繰り返し非難されてきたロシア政府は、この疑惑を「根拠がない」として否定した。
国際非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)によると、現在、9カ国が核を保有している。核不拡散条約で公式に核兵器保有を認められている上述の国連安保理事会常任理事国の5カ国に加え、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮が核兵器を保有しているとみられている。ICANは、これらの国が保有する核弾頭の数を約1万2700発と推定。その大半がロシアと米国にあり、それぞれ約5900発と約5200発の核弾頭を保有している。
(forbes.com 原文)