世界の著名な演奏家たちが愛してやまない楽器メーカー。 ハンドメイドでつくられる「MURAMATSU」ブランドの音色は、今やフルート愛好者たちの憧れとなった。
平日の午後。10本並んだ展示モデルのフルートを前に熱心に品定めをする家族の姿があった。小学生くらいの息子が母親にせがむ言葉は中国語。「この東京・新宿の直営店で購入されるお客様の2割強は海外の方です」。
店内の壁一面に並ぶのは、国内外から仕入れてきたフルートレパートリーの楽譜。「2、3万種類あり、正確な数は私もわかりません。欧州から取り寄せた楽譜なのに欧州の演奏家が探しに来られます」。自社の存在感を物語る話題を淡々と4代目社長の村松明夫は語る。
埼玉県所沢市に本社を置く村松フルート製作所は2023年に創業100年を迎えた。その始まりは陸軍軍楽隊のコルネット奏者だった祖父の孝一。演奏家から楽器製作の道を志し、24歳で除隊してフルートの製作・修理を自宅で始めた。笛づくりの合間には笛を吹け。笛を吹けなければ演奏家のあらゆる要求に応えることはできない──。
孝一が口にしていた言葉を今も貫く。95人いる製造技術職のなかには、音楽大学を出てプロのオーケストラで活躍したり、海外で音楽留学を経験したりしたフルーティストも少なくない。演奏技術や音楽知識をもつ人材と生産管理や金属加工などに卓越した人材が一体となり、一本一本を手づくりする。
フルートの部品数は300を超える。工作機械でつくった部品のかたちを整え、管体に穴をあけ、溶接し、キーを加工・組み付けて、研磨し、調整する。その工程ごとに職人の手業が入る。「管体や各部品の加工は1000分の1ミリの誤差であっても違う音になります。溶接は加熱し過ぎると金属が変質して音色に影響します。繊細な感覚と手早さが大事になります」と村松。技術者が各工程に分かれて腕を磨いていくことで、高品質で安定した生産を続けている。