事業継承

2024.01.31 08:00

事業承継に悩む、中小企業の社長が今から実践できる3つのこと


具体例を紹介しよう。福島県にある製造業の3代目社長は、承継対策として、1年間、可能な限り全業務に秘書を帯同させ、自らの仕事を説明していた。また、自身の息子は勉強のために社外の同業に就職していたが、この3代目社長は半年に一回ほど、『自分の後を継ぐのか』と息子と向き合って話をしていた。併せて、息子が後を継いだ時を想定し、『社長として行わなければいけない仕事』『社長として絶対にやってはいけないこと』という手引を一冊のノートにまとめていた。

上記の他に有効策として挙げるとすれば、「取引先のキーマンは〇〇さん」「仕入先の△社にはこういう対応をしたほうがいい」などと残しておくこと。程度に違いはあるが、転勤する従業員が業務内容を引き継ぐ行動に近いと言えば、お分かりいただけると思う。

社長の中にはなんでも一人でこなせる「スーパーマン」が多い。そうした方々に限って、『自分の代わりなどできるわけない』と思いがちだ。だが、『承継しやすい状況を整えておく』ということは、言い換えれば、『誰でも自分(=社長)のまねができる状態を作っておく』ということである。

会社の運営上、社長でなくてはダメだという業務は譲らなくてもいいが、それ以外の部分で外せると判断した業務は、今からでも他の人に任せていき、社長業の「スリム化」をしていけばいい。これは親族内承継に限らず、従業員承継、M&Aをする場合であっても同じことが言える。

事業承継の準備の前に再確認してほしいこと

M&Aのプロとして事業承継で考える大事なことは、優先順位をつけることだ。このとき、社長ご自身が創業時(もしくは経営を引き継いだ時)に何を思ったのかを見つめ直してほしい。「お金が欲しかった」「良い車に乗りたかった」などと社長ご自身の人生を豊かにしたかったのであれば、今もそれらを当然に肯定していいと思う。

もちろん、年齢、経験、環境などにより、個人(自分自身)のためから、家族のため、従業員のため、と自らの想いが変化してきたのであれば、それを受け入れていい。どのような人生を今後過ごすのかを大切にしながら、前述の1〜3の作業に取り掛かってほしい。

事業承継に取り組む会社が100社あれば、100通りの選択がある。100人の経営者がいたら100通りの答えがある中で、似たような状況といえるケースは割にある。進みたい道に対する正しい答えに出合える確率を上げるのは、事例を中心とした情報を集めることも効果的である。

文=安藤智之

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