イエメン北部の大部分を支配するイスラム教シーア派組織で、シーア派の大国イランから訓練や兵器の提供を受けるフーシ派は、イスラエルが侵攻したパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスを支援するとして、紅海の公海上を航行する商船を攻撃し始めた。これまでに44カ国・地域の関係船舶が攻撃を受け、米国や日本など14カ国は共同で非難声明を出している。
米国と英国は攻撃を封じ込めるために、共同で「繁栄の守護者(プロスペリティー・ガーディアン)作戦」を開始した。作戦では現在、イエメン各地のフーシ派の目標をたたいている。一方、フーシ派の後ろ盾であるイランはイラク国内の目標を攻撃し、紛争をエスカレートさせている。「イスラエルのスパイ拠点」を狙ったとする攻撃では民間人に死傷者が出たと報じられている。
紅海の商船に対する攻撃の背後にもイランがいる。紅海は世界の海上貿易の15%が通過する海運の要衝であり、運ばれる物品の総額は年間1兆ドル(約148兆円)にのぼる。さらに、次はイランとアラビア半島の間にあるホルムズ海峡が危険にさらされる懸念もある。ホルムズ海峡は、米国が輸入する原油の11%が通過し、原油や石油製品が日量およそ2000万バレルが行き交うエネルギー供給の大動脈だ。
現在の危機は暴力の自然発生的な氾濫などではなく、原油価格の高騰で大きな利益を得られる2つの国家主体によって仕かけられた、世界規模の経済戦争である。2国とは、ほかならぬイランとロシアだ。
フーシ派に対しては、レバノンを拠点とするシーア派組織で、やはりイランの全面支援を受けるヒズボラが軍事技術や訓練を提供してきた。米国の情報機関筋によれば、イランは直接、フーシ派に情報や兵器を提供したり、調整を行ったりもしているという。
フーシ派は紅海での商船攻撃について、ガザでの作戦をめぐってイスラエルに「懲罰」を加え、イスラム世界の連帯を喚起したいと言っている。だが、攻撃による情勢不安定化の戦術的な目標は、イスラエルを妨害することではない。それは、世界の海運の要衝とエネルギー市場を攻撃し、西側に巨額の経済損失を与えつつ、米国とその同盟国の海軍リソースをこの地域に釘付けにすることだ。
この経済戦争はすでに、その扇動者たちに見返りをもたらしている。これまでに100隻以上の船舶が、スエズ運河・紅海経由から喜望峰回りに航路を変更している。これは輸送費を大幅に押し上げ、納期の遅延を招いている。
紅海経由の海上輸送の一時停止やルート変更を余儀なくされている企業には、英BP、ノルウェーのエクイノール、デンマークのマースク、台湾のエバーグリーン・ライン(長栄海運)、韓国のHMMなどが含まれる。ドイツのハパックロイドやスイスのMSCといった、非資源系の海運大手も紅海での運航を見合わせている。
この地域での米国のパートナーであるエジプトも大きな影響を被っている。フーシ派による商船攻撃が始まって以降、エジプトのスエズ運河からの収入は40%落ち込んでいる。